メディカルエッセイ

第170回(2017年3月) こんなにも不便な院外処方

 こんなにも安くなるんですね...

 今年(2017年)になってから患者さんからこのセリフを何度聞いたでしょうか。スギ花粉症に対する舌下免疫療法の薬「シダトレン」は、冷蔵庫のスペースが確保できなかったことから当院は過去2年間院外処方としていました。しかし、あまりにも「院内処方にしてほしい」という要望が多いために2017年1月から院内処方に変更しました。

 太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)は、2007年にオープンしたときからほとんどの薬を院内処方にしていました。この理由はおもに2つ。ひとつは開院当初は近くに調剤薬局がなかったことです。このあたりはオフィス街と繁華街が一緒になったようなところで昼間の人口が多い割にはクリニックがあまりありませんでした。そのため調剤薬局が存在しなかったのです。しかしこの10年で少しずつクリニックの数が増えてきて、そのおかげで調剤薬局も誕生しました。

 谷口医院が院内処方にしている理由はもうひとつあります。そしてこの理由のために、近くに調剤薬局ができたのにもかかわらず院内処方を続けているのです。その理由とは「患者さんを診ていない薬剤師に薬の適正使用を説明できるのか」という疑問を私が持っているからです。

 このようなことを言うと薬剤師からは反対意見が出るでしょう。私も別に薬剤師と喧嘩をしたいと思っているわけではありません。薬剤師の方々には、勤務医時代に随分とお世話になりましたし、また助けられました。医師は自分の患者さんに処方する薬の形も色も大きさもよく知りませんし、「味」となるとまったくお手上げです。ところが薬剤師はこれらを何でも知っているのです。ですから実際の服薬指導は薬剤師の方が医師よりも何倍も上手です。しかし、これは入院患者さんに限ってのことです。入院の場合は、医師と薬剤師が同じ患者さんを「診ている」わけで、看護師も交えたミーティングを頻繁におこない、まさに「チーム」で患者さんに接しています。

 ところが、外来はそうはいきません。調剤薬局に勤める薬剤師は診察室で患者さんを診るわけではありません。薬局のカウンター越しに患者さんと簡単な会話をするだけで、医師が発行した処方箋をみて薬の「一般的な説明」をするだけです。あえて意地の悪い言い方をすると、そのような「一般的な説明」は添付文書を読めばわかることです。薬の添付文書はネット上で簡単にダウンロードできます。

 なぜ患者さんを診ていない薬剤師に薬の適切な説明ができないのか。例を挙げましょう。

【症例】30代女性Fさん
谷口医院では、喘息とアトピーと花粉症で通院。症状が改善してきたため、吸入薬は今回から別のタイプのものに変更となった。内服は抗ロイコトリエン拮抗薬を1種類と抗ヒスタミン薬1種類、アトピーは経過良好で顔面と首はタクロリムスでコントロール可能。身体も安定してきたためステロイドからタクロリムスに変更を検討。

 この症例に対し、まず吸入薬の「一般的な説明」をおこないます。その後、症状が安定していれば頻度を減らすことも可能で、その減らし方について説明します。Fさんは介護士であり夜勤もあります。その場合吸入する時間をどうするかを考えなければなりません。内服については、抗ロイコトリエン拮抗薬は1日1錠継続し、抗ヒスタミン薬は調子が悪いときには自己判断で1日2錠に増やしてもいいという判断をおこないました。ステロイド外用は次第に弱くすることに成功していますから、今回は全身をタクロリムスでコントロールすることを目標とします。しかし、必ず成功するとは限りませんから、悪化すれば再びステロイドに戻します。ステロイドは部位によって種類も塗る回数も異なります。さらに、ステロイドを「治療」として用いるのではなく「予防」として用いる場合の使用法(これを「プロアクティブ療法」と呼びます)を説明します。

 さて、この説明が医師と一緒にFさんを見ていない薬剤師にできるでしょうか。外用薬の説明はできるはずがありませんし、抗ヒスタミン薬の増量についても患者さんのことをよく知っていなければできません。

 この一例で充分でしょう。患者さんを診ていない調剤薬局の薬剤師に薬の適切な説明をするのは多くの例で困難なのです。

 ところが、21世紀になってから、クリニックの院外処方の割合が急増しています。厚労省が2017年3月29日に公表した「診療報酬(その1)」という資料(注1)があります。この資料に「医薬分業」がいかに増えているかを示したグラフが掲載されています。「医薬分業」とは一言でいえば、「クリニックで医師の診察を受けて、調剤薬局で薬剤師から薬を受け取る」というもので、要するに「院外処方」のことです。グラフをみれば医薬分業率は右肩上がりに上昇しており、平成27年度の医薬分業率はなんと7割。谷口医院のように院内処方を中心としている医療機関は3割しかありません。

 これはなぜなのでしょうか。Fさんの例を振り返るまでもなく院内処方の方が薬の説明をしやすいのは自明です。では、なぜ医薬分業率がこれだけ上昇しているのか。その答えは「厚労省の誘導」です。つまり、厚労省がクリニックに対して医薬分業を促しているというわけです。ですが、なぜ医薬分業をすべきなのか、その理由が私には理解できません。理解できる人に意見を聞いてみたいものです。では、厚労省はどのようにして医薬分業を促しているのか。答えは「クリニックの儲け」です。もちろん医療機関は営利団体ではありませんが、多少は利益を出さないと人件費を払えませんから、利益が高い方に流れるのはある程度は仕方がありません。そこで、クリニックからみたときに院内処方よりも院外処方の方が儲かるように「操作」をおこなったのです。

 つまり、院外処方箋を発行する際の保険点数を高く設定したのです。クリニックで処方箋を発行すると、それが軟膏1本でも680円(3割負担で200円、以下かっこ内は3割負担)かかります。そして薬局では、最大で1,780円(530円)もかかります(注2)。合わせると最大で合計2,460円(730円)もかかることになります。もしも院内で薬を受け取った場合、この費用は合計で620円(190円)で済みます。この差額、1,840円(540円)は決して小さくありません。薬を処方してもらう度に薬代以外にかかる費用が院外処方から院内処方にするだけで最大540円も安くなるのです。冒頭で紹介したように、院外から院内処方に変更するだけで患者さんから感謝されることがよく理解できます。

 院外処方から院内処方に切り替えるとこれだけ安くなり、しかも診察している医師から薬の説明を聞けるとなると、誰が好んで院外処方箋をもって調剤薬局に行くでしょうか。しかも、薬局にまで行く時間と手間がかかるわけです。クリニック側としても、利益は減りますが患者さんには喜ばれます。

 では、なぜ7割の医療機関は院外処方とし、院内処方にこだわる医療機関は3割しかないのか、そして院内から院外への流れが変わらないのはなぜなのでしょうか。おそらくその最大の理由は、院内処方だと「見かけ以上の損失が多い」ということだと思われます。薬の利益というのはほぼゼロです。例えば1錠100円で処方する薬であればだいたい仕入れ値は99円です。もしも薬の準備をするときに落としてしまったりすればクリニックの損失になります。また消費期限もあります。期限の切れた薬は廃棄せねばなりません。さらに、品切れをしないように、かつ在庫を抱えすぎないように薬を管理するのは思いのほか大変です。実際、谷口医院のスタッフも薬の管理で疲弊してしまっています。しかも谷口医院のような総合診療のクリニックは取り扱っている薬の種類が非常に多いのです。

 ですが、谷口医院では時代に逆らって院内処方を続けていく方針です。たとえ赤字になったとしても、薬の説明は患者さんを診ている医師がおこなうべき、という考えを変えるつもりはありません。

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注1:下記URLを参照ください。4ページに医薬分業率がいかに増えているかを示している分かりやすいグラフがあります。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000158273.pdf

注2:注1の資料の43ページに分かりやすい説明があります。