医療ニュース

2017年6月2日 ピロリ菌除菌で酒さが大きく改善

 難治性の皮膚疾患で患者数が少なくないのにもかかわらず、なぜかマスコミではあまり取り上げられない酒さ。先日は白ワインが酒さ発症のリスクになるかもしれないという研究をお伝えしましたが、今回はその何倍も衝撃的な報告(注1)を紹介します。

 その報告とは、まず酒さの原因のひとつがヘリコバクター・ピロリ菌(以下「ピロリ菌」)かもしれない、というものです。この説は突然湧き出てきたものではなく、以前から一部の医師からは指摘されていました。しかし、反対意見も多く、また高いレベルのエビデンス(科学的確証)をもってピロリ菌と酒さの因果関係を証明した研究は存在しないことから、これまでそれほど強調されてこなかったのです。

 今回の研究では、酒さの患者をまず集めたのではなく、その逆で、ピロリ菌陽性者を先に観察することから始めています。研究の対象者はイラン・タブリーズ医科大学(Tabriz University of Medical Sciences)に2013年5月から2015年11月の間に受診したピロリ菌陽性者872名。そのうち167名(19.15%)が臨床的に酒さと診断されました。酒さは血液検査や画像検査で診断がつくのではなく「臨床的」すなわち医師の視診で診断をつける疾患です。

 167名のうち150名がピロリ菌の除菌がおこなわれ138人(92%)が除菌に成功しました。除菌に成功した患者が酒さも治ったかどうかについては、酒さのそれぞれの症状について検討されています。ほてり、紅斑、丘疹、熱感、落屑、乾燥、浮腫、眼症状については除菌後に有意差を持って改善しています。一方、血管拡張、周辺部位の症状(これが具体的に何を意味するのかは論文からはよく分かりません)、腫瘤様変化については改善は認められませんでした。

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 酒さは人種差があると言われています。私はイラン人の知人が多いわけではなくイランの医療事情のことがよく分からず、それが故にこの報告を日本人にあてはめていいのかどうか判断できません。ですが、ピロリ菌の除菌に成功すればこれだけの統計学的有意差を持って酒さが改善するという結果は注目すべきだと思います。

 まだあります。酒さを治すのは困難ですが、ピロリ菌の除菌は一次除菌に失敗したとしても二次除菌(さらに二次除菌に失敗すれば三次除菌...)があります。この報告は酒さで悩んでいる患者さんは一度は検討してもいいと思います。

 ですが、酒さの原因は様々であり、おそらくピロリ菌が原因の酒さというのはごく一部だと思います。(この研究でピロリ菌陽性者の19.15%が酒さというのは数字が大きすぎるように感じます。日本ではここまでの数字にはならないと思います) ちなみに、太融寺町谷口医院を受診している酒さの患者さんでいえば、原因として最も多いのがステロイドの不適切使用です。ステロイド外用を長期間使用していたことが原因と考えられるのですが、なかにはステロイドの内服や注射を実施しその後酒さを発症したと思われるケースも少なくありません。

 他の酒さの原因として、紫外線曝露、飲酒などが挙げられますが、なかにはまったく原因不明のものもあります。そういったケースではピロリ菌感染の有無を調べてみてもいいかもしれません。


注1:この論文のタイトルは「Effects of Helicobacter pylori treatment on rosacea: A single-arm clinical trial study」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1346-8138.13878/abstract