はやりの病気

第173回(2018年1月) 急増するPFAS(花粉食物アレルギー症候群)

 果物や野菜のアレルギーが増えている、という話を過去のコラム(はやりの病気第144回(2015年8月)「増加する野菜・果物アレルギー」)で述べました。そのときは、増加しているといっても、そうそう頻繁に診ることはなかったのですが、その後の約2年半でどんどん増えてきています。そして、そのコラムでも述べたように「花粉症との合併」が目立ちます。

 これまで(私の感覚では5年ほど前まで)、野菜・果物アレルギーと言えば、ラテックスアレルギーと合併する「ラテックスフルーツ症候群」がちらほらとあった程度で、そんなに多いという印象はありませんでした。しかし、3~4年ほど前から、主にリンゴ、モモなどのバラ科の植物にアレルギーのある患者さんが増え、私の経験上北海道や東北地方の出身者に多かったために、シラカンバ(シラカバ、白樺)アレルギーがあるからではないかと考えていました。シラカンバの花粉とバラ科の植物の表面の蛋白質の構造が似ているために、シラカンバの花粉症があれば一部の果物を食べたときに口腔内に違和感が生じるのです。そして、シラカンバは北国にしか育ちませんから、西日本にはさほど多くないだろうと考えていたのです。

 ところが、ここ2~3年を振り返ってみると出身地域に関係なくバラ科のアレルギーの患者さんが増えています。また、バラ科だけではありません。メロン、トマト、スイカ、タマネギなどを食べると違和感が出ると訴える人が増えています。さらに、これまでほとんどの患者さんは症状がでても軽症で治療を要するほどではなかったのですが、最近は重症化するケース、例えば息苦しくなり喘息の発作止めを使わざるを得ないようなケースが増えてきています。特に豆乳とスパイス(香辛料)でそのような症例が目立ちます。

 今回は野菜・果物アレルギーと花粉症の関係を整理して、どのような対策をとるべきかについて考えてみたいと思います。

 まずは言葉です。数年前よりPFAS(ピーファスと読みます)と呼ばれる疾患名が注目されるようになってきました。PFASの正式名はPollen-food allergy syndrome、直訳すると「花粉食物アレルギー症候群」となります。概念としては、同じアレルギーのメカニズムで花粉症と食物アレルギーの双方が生じる疾患、となります。その理由は先にシラカンバの例で述べたように、花粉と食物の表面のタンパク質の「かたち」が似ているから同じアレルギー反応が起こるのです。

 どの花粉症があればどの食物アレルギーが起こるのでしょうか。いくつか例を挙げましょう。

・スギ → トマト

・ヒノキ → トマト

・ハンノキ →  バラ科の果物(★)
         ウリ科の果物・野菜(☆)
         ダイズ(主に豆乳)
         その他果物(キウイ、オレンジ、マンゴー)                    
         その他野菜(ニンジン、セロリ、トマト、ゴボウ、アボカド)
         イモ類(ヤマイモ、ジャガイモ)
         ナッツ類(ヘーゼルナッツ)

・シラカンバ → バラ科の果物(★)
         ナッツ類(ヘーゼルナッツ、クルミ、アーモンド、ピーナッツ)
         ウリ科の果物・野菜(☆)
         その他野菜(ニンジン、セロリ)
         イモ類(ジャガイモ)
         その他果物(キウイ、オレンジ、ライチ、ココナッツ)
         ダイズ(主に豆乳)
         香辛料(マスタード、パプリカ、コリアンダー、トウガラシ) 

・カモガヤ・オオアワガエリ → ウリ科の果物・野菜(☆)
                その他果物(オレンジ、キウイ)
                野菜(トマト、セロリ、タマネギ)
                イモ類(ジャガイモ)
                穀類(コメ、コムギ)

・ブタクサ → ウリ科の果物・野菜(☆)
        バナナ

・ヨモギ →  野菜(ニンジン、セロリ、レタス、トマト、キウイ)
        ナッツ類(ピーナッツ、ピスタチオ、ヘーゼルナッツ)
        その他(クリ、ヒマワリの種)
        イモ類(ジャガイモ)
        香辛料(マスタード、コリアンダー、クミン、コショウ)

★:リンゴ、モモ・スモモ、ナシ・洋ナシ、ビワ、サクランボ、イチゴ、アンズ
☆:メロン、スイカ、キュウリ、ズッキーニ

 太融寺町谷口医院の患者さんでいえば、この中で最も重症化するのは「豆乳」です。なかには豆乳を飲んで2~3分後に呼吸が苦しくなり、救急車を呼ばねばならなかったという例もあります。そして、全例でハンノキに血液検査で強い反応を示していました。興味深いことに、患者さんは自分自身がハンノキアレルギーという意識がありません。ハンノキというのは北海道から沖縄まで日本全国どこにでも山中に生えている木です。知らない間に山の中で花粉を吸いこみアレルギーが成立していたのでしょう。

 豆乳以外に重症化するのはヨモギアレルギーがある人のスパイス(香辛料)です。東南アジアに住まない限りはコリアンダー(パクチー)を毎日食べる人はそういないでしょうが、マスタードやコショウは日本に住んでいても日常的に口にする機会がありますから、完全に避けるのは思いのほか大変です。この場合は、ヨモギアレルギーの自覚がなかったとしても「秋の花粉症があるかも」とほとんどの人が言います。

 アレルギーがやっかいなのは、現在はなくてもそのうちに出てくることがある、ということです。ですから、花粉症もしくは食物アレルギーがある人は、どういった花粉と食物が関連しているかということをあらかじめ知っておくべきでしょう。そして、いつなんどき食物アレルギーが発症するかもわかりませんから、いつも薬を持ち歩くべきかもしれません。ただし、薬に頼りすぎるのはよくありません。豆乳やスパイスアレルギーがあれば完全に避けなければなりませんし、野菜・果物アレルギーの大半は軽症ですが重症化する例もありますからあなどらない方がいいと思います。

 単なる花粉症であれば、くしゃみ・鼻水・鼻づまりなどの鼻症状と目のかゆみなどの眼症状で苦しむことになりますが、命が脅かされる事態になることはほとんどありません。花粉症で皮膚症状が生じれば生活が制限されるほどの苦痛を伴うことがありますし、喘息症状も辛いものですが「花粉症で重体」というのは極めて稀です。ですが、食物アレルギーの場合は重症化して入院を余儀なくされることはまあまああります。つまり、PFASは「死に至る病」になりうるということです。

 PFASがやっかいな点がもうひとつあります。過去のコラムで紹介した最も難渋するアレルギー疾患といえる好酸球性食道炎がPFASと合併しやすいという報告があるのです(注1)。好酸球性食道炎はいったん発症するとその後の人生が大きく変わりかねない重症性疾患であり、実際厚労省の指定難病に入っています。報告によれば好酸球性食道炎を合併しやすいPFASとして、リンゴ、ニンジン、モモが指摘されています。

 PFASは最近注目されだした疾患です。おそらくこれからいろんなことが分かり、花粉と食物の複雑な関係が少しずつ明らかになっていくでしょう。上に述べた関連以外にも食物アレルギーがあれば花粉症を、花粉症があれば食物アレルギーの可能性を検討していくべきだと私は考えています。

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注1:医学誌『Diseases of The Esophagus』2017年10月26日号(オンライン版)に掲載された論文「Pollen-food allergy syndrome is a common allergic comorbidity in adults with eosinophilic esophagitis」に報告があります。下記URLで概要を読むことができます。

https://academic.oup.com/dote/advance-article-abstract/doi/10.1093/dote/dox122/4566194?redirectedFrom=fulltext



参考:https://www.thermofisher.com/allergy/jp/ja/allergy-symptoms/special-allergies.html