はやりの病気

第208回(2020年12月) 新型コロナ、ワクチンはうつべきか

 ここ1~2週間の間、患者さんからも知人からも最もよく聞かれる質問が「新型コロナのワクチンはうつべきですか?」というものです。

 私のワクチンに対する考え方は医師になってから変わっておらず、毎日新聞「医療プレミア」でも繰り返し伝えています。それは、ワクチンは「理解してから接種する」です。ワクチンの利点・欠点をよく考えた上で、最終的には自分自身で判断しましょう、と言い続けています。「それでは医師として無責任ではないか!」という声があるかもしれませんが、私はワクチンは(というより緊急性がなければほとんどの医療行為は)医師の言いなりになるべきではないと考えています。

 我々医療者がすべきことは、ワクチンに対する情報を分かりやすく患者さんに伝えることです。免疫の話は難解ですから、一般の人が教科書を読んでもなかなか分かりにくいと思います。分からないことがあれば易しい言葉で説明する、それが医師の仕事だと考えています。何度も質問を受けて説明した結果、最終的に「今は接種しません」という結論になったのならそれでいいのです。「理解してから接種する」というのは、裏返せば「理解したから接種しない」という選択肢もOKということです。

 少し例を挙げましょう。過去10年間で、日本で最も物議を醸したワクチンはHPVワクチンです。当院でも過去何百人という人からこのワクチンに関する質問をうけています。私がこのワクチンの利点・欠点について説明した結果、「うたない」という人も「うつ」という人もいます。これでいいわけです。我々医師の仕事は「説明して理解してもらう」ことであり、決してワクチン接種者数を増やすことではありません。ときどき「前のクリニックではワクチンを強引に勧められた」と言う患者さんがいます。そんな医師が実在するとは思えませんが、結果としてその患者さんがそのように感じたのならその医師とは「合わない」と考えた方がいいでしょう。

 前置きが長くなりました。そろそろ本題に入ります。新型コロナのワクチンについて質問を受けたときには現時点で分かっている利点と欠点を説明しています。

 利点としては、ファイザー社とモデルナ社のワクチンは発表では有効性が9割以上と高く、安全性も現時点では問題ないとされていることです。尚、「ファイザー社のワクチン」として名が通っていますが、正確にはBioNTech社というドイツの小さな企業が開発したものです。この会社の規模では早期に市場に送り出すことができないために提携先を探しファイザー社が同意したという経緯があります。ただ、ここでは「ファイザー社のワクチン」として話を進めます。

 これら2社のワクチンの欠点は少なくとも2つあります。1つは「持続期間が分からない」というものです。両者ともワクチンは2回接種になると思われます(おそらく1ヶ月ほどあけて2回目をうつことになると思うのですが詳細は分かりません)。では2回接種してどれくらい効果が持続するのかといえば、それが分からないのです。これは当然であり、開発に着手して1年未満で市場に登場したわけですから、長期間のデータは皆無です。9割以上の効果があったとしても、それを半年ごとにうたねばならない、しかも国民の大多数がうたねばならないのだとしたらかなり大変なことになります。

 もうひとつの欠点は「安全性」です。そもそも安全性というのは長期間観察しなければわからないものです。開発から1年足らずのワクチンを市場に出せば、当初は思ってもみたかった副作用が出現するのはまず間違いありません。それが軽微なものであればいいのですが、その人の人生を台無しにしてしまうような副作用が起こらないとも限りません。これはワクチンの「歴史」をみれば明らかです。

 ここで、最近起こったワクチンの"悲劇"を紹介しておきましょう。2016年4月、フィリピン政府はサノフィ社のデング熱ウイルスのワクチン「Dengvaxia」の接種を開始しました。80万人以上の子供たちに接種された結果、600人以上がこのワクチンを接種した後、死亡しました。フィリピン政府はこのワクチンを中止し、WHOはフィリピン政府を支持、サノフィ社も同意しました。そして、フィリピン政府はこのワクチンを「永久に禁止」としました。

 「ワクチンで600人以上の子供が死亡。製薬会社もワクチンを中止することを認め、国が永久に禁止とした」というこのニュース、もっと大きく報じられてもいいのではないか、と私は言い続けているのですが、このニュースを大きく報道した日本のマスコミを私は知りません。それどころか、サノフィ社のMR(営業)に尋ねてみると、なんとそのMRは「そのような事実は知らない」というのです。つまり、同社のなかでも情報が共有されていないのです。

 これをどうみるか。同社はできるだけ自社社員にもこの事実を伏せておきたいと考えているのか、あるいは600人の子供が死んだことをたいしたことではないと考えているのかのどちらかでしょう。

 話を戻しましょう。ここで私が言いたいのはサノフィ社の責任問題ではありません。強調したいことは「サノフィ社はこのデング熱ウイルスのワクチン開発に20年を費やしていた」ことです。20年かけて研究開発しても600人以上の子供が死亡することが予期できなかったわけです。では、1年足らずで開発され市場に登場したファイザー社とモデルナ社のワクチンの安全性はどのように考えればいいのでしょうか。

 「デング熱と新型コロナは違う種類のウイルスであり、比較するのはおかしい」という声もあるでしょう。実際、これら2種のウイルスはウイルス学的に系統が異なります。ですが、私にはどうしても「気になること」がありその不安が払拭できません。

 この話をきちんと説明すると長くなってしまうので簡単に紹介すると、デング熱は2回目に別のタイプのものに感染すると悪化することが判っています。これを「抗体依存性感染増強現象」と呼びます。そして、サノフィ社のワクチンは1回感染した人に接種すると効果があり、一度も感染したことのない人にワクチン接種してその後感染すると悪化することが指摘されています。つまりワクチン接種が1回目の感染と同じことになっている可能性があるわけです。

 抗体依存性感染増強現象が起こり得るのはデング熱、エボラ出血熱など限られたウイルスだと考えられています。では、新型コロナはどうなのでしょう。新型コロナに再感染したという報告は、感染者がこれだけいることを考えると非常に少ないのは事実ですが、それでも世界中から報告が集まっています。オランダの報道機関BNO Newsによると、2020年12月27日現在、確実に再感染した例が31人でうち2名は死亡しています。そのうち2回目の感染の方が悪化した例が10例あります。この10例は抗体依存性感染増強現象が起こった可能性があるのではないか、というのが私の仮説です。世界で8千万人以上が感染しているなかでのわずか10人ですから、仮に抗体依存性感染増強現象が起こったとしてもごくわずかなのかもしれませんが、これを無視してもいいのでしょうか。尚、再感染は確定例は31例のみですが、再感染の疑い例は2,290例あり、そのうち24人が死亡しています。

 さて、ファイザー社製ワクチン、モデルナ社製ワクチン、あるいは登場間近の他社製のワクチンは抗体依存性感染増強現象を起こさないと言い切れるでしょうか。

 ワクチンの基本は「理解してから接種する」であることをもう一度強調しておきたいと思います。