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2021年9月2日 コロナワクチン、心筋炎のリスクにはなるけれど......

 最近、コロナワクチンの副作用の質問で多いのが「心筋炎」です。

 日本では中日ドラゴンズの木下雄介投手が7月上旬にコロナワクチン接種後(メーカーは不明)にハードなトレーニング中に倒れ意識を失い大学病院に搬送されたものの8月3日に死亡したと報じられています。

  香港の英字新聞「South China Morning Post」2021年7月5日号によると、シンガポールの16歳の男子が、ファイザー製のワクチン接種6日後にジムで激しいトレーニングをした直後に心停止を起こしました。

 報道からは2人とも死因ははっきりしませんが、若くて健康な男性が激しいトレーニングのさなかに倒れたわけですから、まずは心疾患が疑われます。一般に、心臓の疾患は、中年以降であれば心筋梗塞、心不全、心筋症などが考えられますが、健康な若者が突然倒れた場合は不整脈か心筋炎、心膜炎などが疑われます。

 そして実際、ファイザー製のコロナワクチン接種後の心筋炎のリスクは確実にありそうです。

 医学誌「The New England Journal of Medicine」2021年8月25日号に掲載された論文「ファイザー社製コロナワクチンの安全性に関する全国調査(Safety of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine in a Nationwide Setting)」によると、イスラエルでの全国規模の調査では、(ファイザー製)ワクチン接種による心筋炎のリスクが3.24倍に上昇し、これは人口10万人につき2.7人が発症することになります。

 ただし、この論文によると、ワクチンをうたずに新型コロナに感染すると、心筋炎を発症するリスクは18倍以上、10万人あたり11人が発症します。よって、ワクチンをうって起こり得る心筋炎のリスクよりも、感染して心筋炎を発症するリスクの方がずっと高いということになります。

 もちろん、一番いいのはワクチンもうたずに新型コロナにもかからずに、そして心筋炎も発症しないことです。心筋炎の原因として圧倒的に多いのはウイルス性です。様々なウイルスが心筋炎の原因となりますが、最も多いのはコクサッキーウイルスのB群と呼ばれるグループです。他には、コクサッキーウイルスのA群、インフルエンザウイルス、HIV、エコーウイルスなども原因となります。そして、おそらく来年あたりの教科書には心筋炎の原因ウイルスのひとつに新型コロナウイルスも付記されるでしょう。

 心筋炎の観点からワクチンをうつべきか否かを考えてみましょう。もしも新型コロナにかかれば、かかっていない人に比べて心筋炎を発症するリスクが18倍にもなります。とはいえ、10万人あたり11人ですからさほど多いわけではありません。新型コロナに罹患した人10万人を集めて11人(≒1万人に1人)ですから、気にしないという人もいるでしょう。

 一方、ワクチンでのリスクは10万人あたり2.7人で、1万人あたり0.3人と考えるとやはりそんなに多いわけではありません。大切なのは、接種直後に激しい運動をすればリスクが上がるということです。木下投手の報道からは何日後に発症したのかよく分かりませんが、シンガポールの男子は6日後と報道されています。ということは、やはりワクチン接種後1週間はジム(フィットネスクラブ)での激しい運動は避けるべきだ、ということになります。