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2022年1月4日 円形脱毛症は認知症と網膜疾患のリスク

 円形脱毛症の患者さんから尋ねられる最も多い質問は「原因は何ですか?」です。興味深いことに、この後に続くのは「ストレスが多いからですかね?」と「私にはストレスがないのですが......」と正反対のコメントです。

 円形脱毛症が起こる理由は「免疫系の細胞が(大切な)毛根を敵と勘違いして攻撃してしまうから」と言えます。ストレスが原因かどうかという問いに対して私はしばしば「半分イエスです」と答えています。ストレスそのものが直接脱毛につながるわけではありませんが、強烈なストレスにより免疫系が乱れることがあるからです。「ストレスがない」という人は我々からみると要注意です。

 社会生活を営んでいれば何らかのストレスがない方がおかしいわけで「ストレスがない」と言う人のいくらかは過酷な環境にいます。例えば過重労働が月に100時間を超えているのに「こんなの平気です。勉強させてもらって給料までもらえて幸せなんです。僕には何のストレスもありません」というような人は注意が必要なのです。例えばある日突然うつ病を発症するようなことがあります。

 話を円形脱毛症に戻しましょう。この疾患に対して「原因は?」と尋ねる人は多いのですが、「円形脱毛症はどのような疾患のリスクになりますか?」と聞く人はほとんどいません。今回紹介したいのは、円形脱毛症は「認知症」そして「網膜疾患」のリスクになるという話です。

 医学誌「The Journal of Clinical Psychiatry」2021年10月26日号の論文「円形脱毛症と認知症のリスクの関連:全国コホート研究 (Association of Alopecia Areata and the Risk of Dementia: A Nationwide Cohort Study)」によると、円形脱毛症は認知症のリスクとなります。

 研究の対象者は45歳以上の円形脱毛症を有する台湾の男女2,534人です。対照には、年齢、性別、収入、疾患などを合わせた25,340人が選ばれています。結果、円形脱毛症があればどの年齢、性別でもすべての認知症のリスクが対照者に比べて3.24倍、アルツハイマー病については4.34倍にも上昇していました。特に65歳以上の男性のアルツハイマー病のリスクが高かったようです。

 次に医学誌「Journal of the American Academy of Dermatology」2021年11月1日号の論文「円形脱毛症と網膜疾患の関連:全国的コホート研究 (Association between alopecia areata and retinal diseases: A nationwide population-based cohort study)」を紹介しましょう。

 研究の対象者は台湾の円形脱毛症の男女9,909人です。対照にはやはり条件を合わせた99,090人が選定されています。結果、対照者と比較して、円形脱毛症があれば網膜疾患に罹患するリスクが3.10倍に上昇していました。具体的には、網膜剥離(retinal detachment)が3.98倍、網膜血管閉塞症(retinal vascular occlusion )が2.45倍、網膜症(retinopathy)が3.24倍です。

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 円形脱毛症は軽症の場合、標準的な治療で治りますし、場合によっては何もしなくても自然に治癒します。ですが、他方、重症化するとかなり難渋することもあります。入院してもらいステロイドを大量に点滴すれば治ることは治るのですが、この方法はすぐに再発するケースが多々あります。脱毛専門の医療機関を紹介することもあるのですが、結果としてうまくいかないケースもそれなりにあります。

 かといって、特に予防する方法もありません。漢方薬もほとんど効果がありませんし、認知行動療法も無力です。医師泣かせの疾患のひとつです。