医療ニュース

2024年2月4日 道路の空気汚染が血圧を上昇させる

 個人的な話になりますが、私が医学部の1回生から研修医の1年目が終了するまで住んでいたワンルームマンションは高速道路の横に位置していました。19歳から26歳までは大阪市北区の幹線通り沿いにあるワンルームマンションに住んでいました。研修医2年目を迎えるとき、新たに研修医として勤務することになった枚方市の病院の敷地内の寮に入りました。

 驚きました......。こんなにもぐっすりと眠れることに。それまでは意識したことがありませんでしたが、住宅街に位置する病院のその敷地内の寮の環境はとても静かで、その静かな環境では深い睡眠が得られるのです。今から考えれば当然かもしれませんが、その当時は思いもしませんでした。

 2021年8月、当時の太融寺町谷口医院は階上キックボクシングジムが起こす振動で診療が度々妨げられるようになり、繰り返し申し入れをしても無視されたため(2024年2月現在も裁判中)、新しい場所を探していました。

 不動産屋が紹介したある物件は新築で広さはじゅうぶん、家賃も高くなく、クリニックには適しているかと思えました。結局、この物件は「コロナを診るなら患者にビルのトイレを使わせないでほしい」と言われたために断ったのですが、私はそれがなくても「ここでは診療ができない」と考えていました。

 高速道路の横だったからです。キックボクシングジムがつくる振動よりははるかにましですが、高速道路ですから騒音は避けられません。また粉じんが舞います。

 前置きが長くなりましたが、今回紹介したいのは「道路の空気汚染が血圧を上昇させる」を示した研究です。論文は医学誌「Annals of Internal Medicine」2023年11月28日号に掲載された「交通関連の大気汚染による血圧への影響(Blood Pressure Effect of Traffic-Related Air Pollution)」です。

 研究の対象者は正常血圧の22~45歳の16人(平均年齢29.7歳)です。シアトル市のラッシュアワーの時間帯に、外気が車内に入り込む車(フィルターなし)で2日間運転を行うグループと、外気の微粒子を取り除く高性能フィルター(HEPAフィルター)が装備された車で1日だけ運転を行うグループに振り分けられました。尚、被験者にはどちらのタイプの車かは知らされず、HEPAフィルターの有無は乗っただけではわかりません。

 結果、外気がHEPAフィルターで取り除かれた車を運転した場合と比べて、外気が車中に入り込む車を1時間運転した場合、拡張期血圧(下の血圧)が平均で4.7mmHg上昇、収縮期血圧(上の血圧)は4.5mmHg上昇しました。24時間後の平均血圧でみても、外気が車中に入り込む車を運転した場合は、拡張期血圧が3.8mmHg、収縮期血圧が1.1mmHg上昇していました。

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 車がゆっくりとしか走れない住宅地よりも早いスピードで走る幹線道路や高速道路の方が粉じんはたくさん舞います。音もしますし、場所によっては振動も伝わってくるでしょう。そういった環境に現在住まれている人には失礼ですが、そのような場所は「住むだけで不健康」と言えるでしょう。

 新・谷口医院は、旧・谷口医院から徒歩で5分しか離れていないのに、前がお寺、横がお墓、後が高級タワーマンションという大変静かで恵まれた場所に位置しています。つい7ヶ月ほど前までは階上から壁がゆれる程の振動を加えられていたわけですから夢のような環境です。今回紹介した研究は「振動」ではなく「粉じん」についてのものですが、旧・谷口医院(太融寺町谷口医院)を受診していた人も階上にキックボクシングが入居してからは振動で血圧が上昇していたかもしれません......。