医療ニュース

2024年5月31日 インターネットは幸せにつながる

 インターネットは我々の生活を劇的に改善させましたが、そのせいで人々が孤独になり精神衛生上は良くないという指摘があります。それは事実なのでしょうか。「そんなことはなくてインターネットは人を幸福にする」を示した研究を紹介したいと思います。

 医学誌「Technology, Mind, and Behaviour」2024年5月13日号に掲載された論文「インターネットの使用と幸福感の関連性に関するマルチバース分析(A Multiverse Analysis of the Associations Between Internet Use and Well-Being)」です。

 研究の対象は168か国の2,414,294人で、調査期間は2006年から2021年です。インターネットにアクセスできること、またはインターネットを積極的に使用することが、幸福につながるかどうかが調べられました。結果、インターネット接続と幸福の間に統計的に有意な正の関連性(つまりインターネットの利用がえれば幸せが増す)が認められ、インターネットは生活満足度や目的意識などの幸福度指標を高めるという結論が導かれました。

 この論文について、科学誌「Nature」が5月12日に取り上げています。同誌は「インターネットにアクセスできる人は、ウェブにアクセスできない人に比べて、生活満足度、肯定的な経験、社会生活への満足感の尺度で平均8%高いスコアを獲得し、オンライン活動は人々が新しいことを学び、友達を作るのに役立ち、これが有益な効果に寄与する可能性がある」とインターネットの利点を強調しています。

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 このような研究を待つまでもなく、インターネットが人を豊かにしているのは明らかだと私は思いますが、SNSには弊害があることもまた自明と言えるでしょう。SNSの普及により、心を病む若者が増え、それが自殺率の上昇につながっていることが繰り返し指摘されています。

 ワシントンポストによると、米国では学校でスマホ中毒とも呼べる状態の生徒が多く、これを阻止するため、登校時にロックのかかるポーチにスマホを収納することを義務付ける学校が増えています。当初は生徒や保護者からの反対が多かったものの、継続して実行すると生徒どうしの(本来のかたちの)コミュニケーションが増え、授業に集中できるようになってよかったという意見が多いそうです。

 上記Natureの記事では、「過去1週間にインターネットを利用した15~24 歳の女性は、ウェブを利用しなかった人に比べて、住んでいる場所への満足度が低い。これは、自分のコミュニティで歓迎されていないと感じる人々がオンラインで過ごす時間が長いためかもしれない」とするこの論文の研究者の意見を載せています。ということは、もともと幸せでない人がインターネットにアクセスしているということなのかもしれません。

 いずれにしても大切なのは「使い方」でしょう。たしかに(一部の)若者のように、SNSで承認欲求まるだしの自慢話を披露したり、他人の悪口を書きまくっていたりすれば心を病んでいくのも無理もありません。一方、勉強や情報収集のツールとしてインターネットを用いるならこれほど便利なものもありません。一種の"革命"と呼んでもいいでしょう。ということは「ネットは〇か×か」ではなく、「人を幸せにするネット利用法は?」を考えればいいわけです。