はやりの病気

第116回(2013年4月) 便秘を治す(前編) 

 便秘には多くの人が悩まされています。しかしながら、これだけありふれた疾患ながら「便秘のみ」で受診する「初診の」患者さんはそれほど多くありません。

 例えば、腹痛で受診し、問診から便秘があることが判り、便秘を治すことによって腹痛が改善した、というケースはよくありますし、全身倦怠感や身体のむくみで受診し、やはり問診から便秘もあることが判った、というケースにも遭遇します。こういう場合は全身に様々な症状をきたす疾患が隠れていることがあり、「便秘」が診断の大切な手がかりになることがあります。

「便秘のみ」を訴える人のなかには、よく聞くと「大腸ガンが心配で・・・」が本当の受診理由であることがあります。これはまったく正しい考え方で、目安として40歳を超えてから便秘に悩みだした、という人は医療機関を受診すべきです。こういう人の多くは、雑誌やテレビ、インターネットなどで、「大腸ガンの症状は便秘・・・」というものを目にして受診することが多いと言えます。(ただし、「便秘があって大腸ガンが心配・・・」と言って受診する人で、大腸ガンが実際に見つかることはごくわずかです)

 純粋に「便秘」だけを目的に受診する人はそう多くはありません。これは、おそらく「便秘ごときで医療機関を受診すべきでない」と考えている人が多いからでしょう。

 医療機関を受診しなくても、市販の便秘薬で対処できるのであれば問題ないでしょう。しかし、その市販薬の使用量が次第に増えてきているとすれば問題ですし、市販の薬で改善しないのであれば医療機関を受診すべきです。たかが便秘・・・、という見方もあるかもしれませんが、便秘は勉強や仕事の効率を落とし、場合によっては生活の質(QOL)を大きく損ねることになります。

 というわけで、今回は、便秘に対して医療機関ではどのように対処しているかについて述べていきます。

 医療機関では、まずその便秘が「純粋な便秘」なのか「何かの病気が原因で起こっている便秘」なのかについて鑑別することから始めます。「何かの病気が・・・」というのは、先に例にあげた大腸ガンや甲状腺機能低下症が代表ですが、糖尿病で起こることもあれば一部の膠原病(強皮症など)でも起こりえますし、高齢者であればパーキンソン病ということもあります。下痢と便秘を繰り返しているなら「過敏性腸症候群(IBS)」という疾患の可能性もあり、これは非常に多い疾患です。また、薬剤が原因ということもあり、この場合は市販の風邪薬でも起こりえますので、注意深い問診がまずは必要となります。

 この時点で大腸ガンを疑えば、大腸ファイバー(肛門からカメラを入れる検査)を勧めることになります。先にレントゲンを撮ることもありますが、私の場合、大腸ガンの可能性が高いと考えれば、レントゲンを省略して大腸ファイバーを勧めています。(谷口医院では実施できませんので近くの医療機関を紹介しています)

 甲状腺機能低下症や膠原病、糖尿病を疑えば血液検査をおこないます。特に甲状腺機能低下症の場合は、血液検査をしない限りは診断がつきませんので、可能性があると考えれば早い段階で採血を勧めることが多いと言えます。

 当たり前の話ですが、「何かの病気が原因で起こっている便秘」の場合は、その病気の治療をすすめていくことになります。

 便秘の頻度でいえば「何かの病気が原因の便秘」よりも「純粋な便秘」の方が圧倒的に多いと言えます。便秘の患者さんが100人いるとすると「何かの病気が原因の便秘」の患者さんは1人いるかどうか、という程度で、ほとんどの人は「純粋な便秘」です。(ただし、先に述べた過敏性腸症候群(IBS)は頻度の高い疾患です。これについてはいずれ改めて詳しく紹介したいと思います)

 冒頭で私は、「便秘」のみを訴えて受診する患者さんは多くない、と述べました。しかし、太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)で便秘の治療を受けている人は大勢います。これはなぜかというと、最初に受診したときは便秘とは関係のないことで受診し、そのうちいろんな健康上の悩みを話されるようになり、そのうちのひとつが便秘、というケースが多いというわけです。

 ここからは「純粋な便秘」の治療法について話をすすめていきます。

 まずすべきことは、それはどのようなタイプの便秘かということです。教科書的にはいろんな分類法があるのですが、私が重視しているのは、まず「腹痛があるかないか」です。腹痛がある場合、市販のものも含めて腸管を刺激するタイプの薬は使うべきでありません。なぜなら腹痛があるということは、腸管の一部が動いているけれどもその先に通過障害があり、そのために痛みが生じている可能性が強く、そのような状態に腸管を刺激する薬を使えば腹痛はさらに増悪することになるからです。

 この場合、まず試みるのは便をやわらかくする薬です。酸化マグネシウムが最もよく使われます。副作用がほとんどなく(注1)、値段が安いのが特徴です。後発品を使えば1錠(330mg)あたり5.6円で3割負担では2円未満となります。酸化マグネシウムの1日あたりの投与量は最高で6錠(2グラム)。1日あたり10円(3割負担)という安さです。

 酸化マグネシウム以外で便を柔らかくする薬というのは、あまり有名でないものが多かったのですが、2012年11月にまったく新しい便秘薬が発売されました。

 この新薬の名前はアミティーザ(一般名はルビプロストン)といい、小腸からの水分分泌を促すことにより、酸化マグネシウムとはまったく異なる作用機序で便を柔らかくします。このアミティーザという薬、便秘薬としては実に32年ぶりの登場です。ちなみに32年前に発売された便秘薬はラキソベロン(一般名はピコスルファートナトリウム水和物)です。(ラキソベロンは腸管を刺激するタイプの便秘薬として次回紹介します)

 アミティーザが発売されて数ヶ月が経過しますが(2013年4月現在)、谷口医院では本格的には処方しておらず、一部の患者さんに説明をして同意を得た場合にのみにしています。というのは、まだ、発売後の全国規模での評価が充分におこなわれているとはいえず、どの程度有効なのかが未知だからです(注2)。

 それからもうひとつ、谷口医院で本格的に処方をおこなっていない理由があります。それはコストです。アミティーザは1錠あたり156.6円(3割負担で47円)もします。1日2回が基本なので1日あたり3割負担で94円もすることになります。これが2週間になると1,316円。これまで散々苦労してきた便秘が2週間のみの処方で治る可能性は高くなく数ヶ月は続けることになるでしょう。とすると、3ヶ月(12週)で7,900円もすることになります。これに処方代や診察代も加わりますから実際には10,000円を超えることになります。
 なかには、それくらいコストがかかっても長年の便秘が解消されるなら飲んでみたい、という人もいるかもしれません。しかし現時点では有効性についてのデータが乏しいこともあって、谷口医院では本格的な処方に踏み切っていないというわけです。

 次回は、腸管を刺激するタイプの便秘薬や漢方薬の紹介とその危険性、レントゲン検査について、その他の便秘対策などについて紹介していきたいと思います。


注1:高齢者の場合は稀に高マグネシウム血症になることがあり注意が必要です。また腎臓の機能が低下している場合は使えないこともあります。それ以外にも副作用がないわけではありません。また、下記医療ニュースも参照ください。

注2(2017年10月付記):大規模な集計結果は見たことがありませんが、谷口医院の患者さんで言えば、アミティーザを使っていたけれども現在は他の便秘薬にしているという人が大半であり、また新たな処方はそれほど多くありません。

参考:医療ニュース2008年12月1日「便秘薬長期使用で2人が死亡」