医療ニュース

2013年2月1日(金) 謎に包まれた新しいダニ媒介の感染症

 2013年1月30日、厚生労働省は、マダニを媒介してヒトに感染するウイルスが原因で、山口県の成人女性が2012年秋に死亡していたことを発表しました(注1)。

 この病気は「SFTS(重症熱性血小板減少症候群, Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome)」という名称で、原因ウイルスは「SFTSウイルス」と命名されています。このウイルスは、ウイルス学的には「ブニヤウイルス科」に属します。ブニヤウイルス科といえば、クリミア・コンゴ出血熱ウイルスやリフトバレー熱ウイルスなど、致死的な疾患の原因ウイルスが有名です。
 
 SFTSは歴史が新しく、2011年に中国で初めて発見されました。中国ではこれまで数百例の報告があり、致死率は約12%だそうです。

 山口県の女性は発熱や嘔吐で医療機関を受診しすぐに入院となったそうです。血小板と白血球が大きく減少し、血尿・血便が止まらず、入院後1週間で死亡したと報じられています。ダニに刺されたような痕跡はなく海外渡航歴もなかったそうです。
 
SFTSウイルスが検出されたために診断確定となったわけですが、遺伝子の検査をおこなうと、中国で確認されているものとは配列が異なり、中国から入ってきたものではなく、もともと国内にあった可能性が高いとされています。
 
 SFTSには特効薬もなくワクチンもありません。

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 山口県のこの事例でひっかかるのは、ダニが刺した痕跡がない、ということです。歴史が浅くまだ解明されていないことがあるはずで、おそらく血液や体液を介してヒトからヒトに感染することもあるでしょう。だとすると、何らかのかたちで他人(例えば中国から渡航してきた人)の体液に触れて感染、という可能性もあるのではないでしょうか。
 
 遺伝子の塩基配列が中国のものとは違う、とされていますが、ブニヤウイルスは遺伝子をDNAではなくRNAで持っています。2本鎖のDNAに比べると、1本鎖のRNAは不安定ですから、DNAに比べると容易に変異がおこります。まだ解明されていないけれども、実はSFTSは感染しても発症せずにヒトの体内に棲息することがあり、そのうちに変異がおこり、血液や体液を介して他人に感染させることがある。そして感染させられた者は急性発症する、ということも起こりうるのではないかと私はみています。
 
 しかし、マダニが感染源と分かっていている以上、野山に行く人はマダニ対策をすべきです。マダニが媒介する感染症は、SFTS以外に日本紅斑熱やライム病もありますし、最近アメリカで新しい感染症も報告されています。(下記医療ニュースも参照ください)
 
注1:厚生労働省の発表は下記URLを参照ください。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002u1pm.html


参考:医療ニュース
2012年9月15日 「ダニに刺されて発症する新しい感染症」