医療ニュース

2013年3月12日 意外に多いかもしれないHMPV

 いわゆる「風邪」のウイルスとして最も有名なのはインフルエンザウイルスでしょう。インフルエンザ以外ではアデノウイルスとRSウイルスあたりが最近は有名になってきていて、これらは保険診療で検査をおこなうことも場合によっては可能になりました。
 
 これら以外ではSARSの原因ウイルスとして注目を集め、最近では中東で感染しときに重症化することのある新しい型が発見されたことで注目されつつあるコロナウイルスはある程度有名かもしれません。
 
 しかし、それ以外の風邪の原因ウイルス、具体的には、ライノウイルス、エコーウイルス、パラインフルエンザウイルス、などはほとんど注目されていないのではないでしょうか。この理由として、これらウイルスに罹患して「風邪」をひいてもそれほど重症化しないこと、簡単な検査キットがないこと、特効薬がないこと、などが考えられます。
 
 最近、「風邪」の病原体のひとつとして注目されつつあるウイルスがあります。そのウイルスの名前はhuman metapneumovirus(HMPV)で、発見されたのは2001年です。
 
 医学誌「New England Journal of Medicine」2013年2月14日号(オンライン版)(注1)によりますと、米国の研究でこのウイルス(以下HMPV)が小児の入院や救急外来受診の一部の原因になっていることが判りました。
 
 研究者は、2003年から2009年までの米国の3つの郡の病院からHMPVに関するデータを収集し分析しています。その結果、この期間に入院した小児3,490人の約6%、外来を受診した小児3,257人の約7%、救急外来を受診した小児3,001人の約7%でHMPVが検出されました。
 
 HMPV感染で入院した小児は、元々喘息があるケースが多く、なかには酸素吸入を必要とし、集中治療室(ICU)での治療を要するケースもありました。しかし、喘息などの基礎疾患がなくても感染しにくいというわけではなく誰にでも感染するようです。
 
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 HMPVによる急性上気道炎症状は数年前より日本でも話題になることが増えてきており、すでに簡易検査キットもあります。しかし、風邪で受診する患者さんのどの程度がHMPVによるものなのかは不明のままでした。日本とアメリカでは状況が異なっている可能性はありますが、このような研究は注目に値するでしょう。
 
 HMPVの症状は、RSウイルスに似ていると言われています。つまり感冒症状のなかで咳が最も目立ちます。RSウイルスもHMPVも共に特効薬がなく対症療法しかできません。RSウイルスは入院した小児には保険で検査ができますが、HMPVは現在のところ、簡易検査キットがあるのにもかかわらず、どのような場合でも保険診療で調べることはできません。
 
 今のところ、成人に感染してもたいした症状は出ないとされていますが、同じように言われていたRSウイルスが高齢者の施設で集団発生することが最近わかったように、今後成人の集団感染も起こる(すでに起こっている)かもしれません。
 
(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは、「Burden of Human Metapneumovirus Infection in Young Children」で、下記のURLで概要を読むことができます。
 
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1204630

参考:医療ニュース
2012年9月30日 「RSウイルス感染症に注意」