医療ニュース

2013年5月31日(金) SFTS、マダニからウイルス検出される

 山口県の成人女性が2012年の秋に死亡した原因がSFTS(重症熱性血小板減少症候群)であることを厚生労働省が公表したのは2013年1月30日で、これが国内1例目の報告です。

 発表によれば、この女性の体内からSFTSウイルスが検出されたものの、女性の皮膚にはダニの刺し傷がなく、また中国で報告されているSFTSウイルスとは遺伝子の配列が異なることから、私は本当にダニが媒介したのかどうか疑問に思っていました。

 その後SFTS感染が複数の県で発症していることが判り、2013年5月の時点で、合計10県で15人が感染したことが確定しており、そのうち8人は死亡しています。

 これまでの報道で私が疑問を払拭できなかったのは、感染者はSFTSが流行している中国への渡航歴がなく、また、山に行ったという人はいるものの、ダニの刺し傷が見当たらない例が多いからです。人の皮膚に吸い付くダニは肉眼でも充分見える大きさです。そしてダニに刺されたと言って医療機関を受診する人は、たいていは刺し傷が見つかります。

 ですから、私は、本当にダニが媒介しているのか、本当はSFTSウイルスの変異型が人から人に感染しているのではないか、と疑っていたというわけです。

 しかし、ついにダニそのものからウイルスが検出されました。2013年4月、SFTSを発症した山口県の60代の女性患者の皮膚にはタカサゴキララマダニというマダニが付着しており、そのマダニからSFTSウイルスが検出されたことが発表されました。これが国内初のマダニからのウイルス検出例ということになります。

 タカサゴキララマダニは国内最大級のマダニで、関東より西部の山間部に生息しています。春から秋にかけて活動し、イノシシなどの哺乳動物に付着し吸血するようで、成虫は8ミリにもなるそうです。

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 もともとSFTSというのは中国で2011年に初めて報告された感染症であり、中国ではこれまで数百人が罹患し、死亡率は約12%と言われています。ダニが媒介する感染症ですから、中国でも発症は都心部ではなく山間部であるはずです。中国の山間部は日本に比べるとはるかに医療機関へのアクセスが悪いでしょうから、SFTSウイルスに感染しても軽症であれば医療機関を受診していないことが予想されます。ある程度重症になった例だけが医療機関を受診することになりますから、報告されている死亡率(死亡者数/重症になり医療機関を受診せざるをえなかった感染者)は、実際の死亡率(死亡者数/実際の感染者数)よりも高くなると考えられます。つまり実際の死亡率は12%よりも低いというわけです。

 ところが、日本での死亡率は5割以上(死亡者8人/感染者15人)ですから、中国のSFTSよりも日本のSFTSの方が重症化する可能性があります。

 以前も述べたことがありますが、ダニが媒介する感染症はたくさんあり、国内では日本紅斑熱、ライム病、ツツガムシ病などはときおり報告があります。海外では、ロッキー山紅斑熱(北米)、クリミア・コンゴ出血熱(アフリカ・中東など)、ダニ媒介性回帰熱(イベリア半島やアジア西部の半島)、ダニ媒介性脳炎(ロシア春夏脳炎ウイルス、中部ヨーロッパ脳炎ウイルスなど)などがあります。これらには死に至ることもある感染症です。

 あまり不安に思いすぎるのもよくありませんが、野山に行くときはダニに刺されない服装と虫除けスプレーを忘れないようにしましょう。特に西日本でのハイキングやトレッキング時にはSFTSという致死率5割を超える感染症があることを覚えておいた方がいいでしょう。

 それにしても刺し傷の見つからなかったSFTSは、いったいどのように感染したのでしょうか。刺し傷が消えてしまっていただけなのでしょうか。

(谷口恭)

参考:医療ニュース
2013年2月15日「SFTSで新たに2人の死亡が確認」
2013年2月1日「謎に包まれた新しいダニ媒介の感染症」