メディカルエッセイ

第125回 肉をもっと食べろ、なんて誰が言った? 2013/06/20

私は産業医や労働衛生コンサルタントとしての仕事もしていることもあって、従業員の健康管理を担当している人の相談に乗ることがしばしばあります。私が面談をするのはたいてい小さな企業で、健康管理を担当している人はほとんどが人事部か総務部の責任者です。

 従業員が数十人程度の企業であれば、全員の健康診断の結果を見せてもらい、注意点をアドバイスするようなこともあります。

 そこでよく思うのが、30~50代の労働者(特に男性)の肥満率が大変高い、ということです。企業によってはBMI(注1)が25以上のあきらかな肥満が過半数を超えているようなところもあります。担当者に話を聞くと「ここ数年で喫煙者は減ったが肥満は一向に減らない」と言われます。

 また、健診の結果を見せてもらっても、高脂血症や高血圧、糖尿病(またはその予備軍)、あるいはおそらく脂肪肝からきている肝機能障害を有している人が非常に多いという印象があります。

 現在の日本人(特に中年男性が多いが女性も少なくはない)の多くは、エネルギーを摂りすぎているのは自明のように思われます。

 ところが、です。この私の印象とは正反対に、「日本人は必要な栄養素(カロリー)を摂っていない。もっと肉を食べなければ健康になれない」という肉食推進派が(科学者の中にも)けっこういます。私が日々診察している患者さんのことや、企業の担当者との話の内容を考えると、「日本人は高カロリーのあぶらっこいものを控えるように」と言いたくなるわけで、私と肉食推進派では大きく意見が食い違うことになります。

 今回は、なぜこのように見解が異なるのか、の謎を解き、「肉は摂りすぎるべきでない」という結論を述べていきたいと思います。

 まず、肉食推進派がよく言うセリフに、「戦後、欧米の食文化が入ってきて肉を食べるようになったおかげで寿命が延びた」というものがあります。しかし、だから「肉をもっと食べろ」とするのは乱暴すぎます。

 たしかにある程度の肉は必要だと私自身も考えています。しかし、ほとんど肉など口にすることができなかった時代と肉が自由に食べることができるようになった時代の比較は極端すぎて無理があります。平均寿命が延びたのは肉によるタンパク質を摂れるようになったから、というのは事実ですが、それは「必要最低限の肉を摂れるようになったから」と考えるべきです。

 戦後平均寿命が延びたのは肉のおかげだけではありません。まず、食事以外の要因がかなり大きいのは間違いありません。つまり医療技術の進歩です。なかでも感染症の治療は飛躍的に向上しています。アジア・アフリカの発展途上国が今も平均寿命が短いのは、何も肉を食べていないからではなく、最大の要因は感染症の適切な治療と予防ができていないからに他なりません。

 食事の内容が変わったことで平均寿命が延びているのも事実ですが、これは肉のおかげだけではありません。肉が自由に食べられるようになったことも重要ですが、それ以上に重要なのは塩分摂取量が大きく減少したことです。戦後間もない頃の日本人の食塩摂取量は1日あたり20グラムに近かったと言われています。東北地方に限って言えば30グラム近かったのでは、と指摘されることもあります。現在は国際的にはまだまだ塩分過多ですが、それでも平成23年度の「国民健康・栄養調査」(注2)では10.4グラムまで減少しており、この減少が脳血管障害のリスク減少に関連があるのは明らかです。

 ですから肉食推進派のよく言う「戦後欧米型の食事が入ってきたから寿命が延びた」というのはあまりにも乱暴な理屈なのです。

 次に、肉食推進派がよく言う「現代の日本人はカロリー摂取が少なすぎる」という点をみていきたいと思います。平成23年度の「国民健康・栄養調査」によりますと、日本人の平均エネルギー摂取は1,840Kcalと、これを見ると大変少ないことがわかります。私が日々肥満者が多いと感じている40代の男性だけをとりあげてみても2,090Kcal、20代の女性でいえば1,595Kcalしか摂取していません。

 たしかにこの数字だけをみると、飢餓とは無縁の先進国だけで比べると、日本ほどエネルギーを摂っていない国民はいない、ということになります。しかし、この数字は本当に実態を反映しているでしょうか。

 入院したことがある人ならわかると思いますが、入院食というのは厳格にカロリーがコントロールされており、一番多いものでも2,000Kcal程度です。私は交通事故で1ヶ月近く入院していたことがありますが、一番多い2,000Kcalの食事を選択しても、全然足りませんでした。私には働き盛りの40代男性が、飲み会や接待でのアルコール摂取なども含めて1日2,090Kcalというのが信じられないのです。

 ここで具体的に何をどれくらい食べれば何Kcalくらいになるかを確認しておきましょう。厚労省の「肥満を防ぐ食事」のサイト(注3)によりますと、ハンバーガーセットが676Kcal、幕の内弁当が727Kcal、チャーハン755Kcal、春巻き358Kcal,ビール大ジョッキ320Kcalです。こんなに食べられないという人もいるでしょうが、このくらい毎日のように食べているという人もいるのではないでしょうか。これらの合計が2,836Kcalです。これにビールのおかわりをしたり、3時のおやつにドーナツ1つを食べたりすれば、3,000Kcalを超えます。

 私が厚労省の発表するエネルギー摂取量の数字を信じられない理由をもうひとつ挙げたいと思います。この数字が発表された平成23年度の「国民健康・栄養調査」では、肥満者の割合も報告されています。BMI25以上が肥満とされ算出されており、その肥満に相当するのが、男性の30.3%、女性の21.5%というのです。

 厚労省の調査にいちゃもんをつけるようですが、平均エネルギー摂取量が1,840Kcalで、女性の2割、男性の3割もが肥満、となるのはおかしくないでしょうか。つまり、カロリー摂取量が適切に算出されているのかどうか私には疑問に思えてならないのです。また、このカロリー摂取量が正しいとすれば、極端にエネルギーを摂っていない人(つまりやせている人)と摂りすぎている人の差が大きいということになり、これはこれで問題です。なぜなら、「やせ」は肥満と同様かそれ以上に健康上のリスクがあるからです。

 さて、肉食推進派が主張する別の意見を紹介したいと思います。それは、数年前から欧米でしばしば指摘される「少し肥満がある方が長生きする」という研究(注4)です。肉食推進派は「日本人はやせすぎだ。長生きするためにももっと肉を食べて体重を増やすべきだ」と言うときに、こういった研究結果を引き合いにだします。

 しかしこの見解を日本人に当てはめるのはあまりにも危険です。なぜなら、体質というか遺伝子が日本人(東洋人)と欧米人では異なるからです。つまり、欧米人は少々体重が増えても高血圧や高脂血症、糖尿病、あるいは肝機能障害を起こしにくく、日本人は簡単に起こしやすいのです。日本人のなかにも肥満があっても血圧や血液検査の数値に異常がない人がいるのは事実ですが、少しの肥満でもすぐに異常値を示す人がいるのもまた事実です。もちろん少しの異常値が出ただけで大騒ぎする必要はありませんが、「ちょっと太っている方が長生きする」というのを盲目的に信じるのはあまりにも危険です。

 今回の私の結論としては、「肉を食べ過ぎるのは危険であり、今一度自分の摂取しているカロリー摂取量を見直して肥満は防ぎましょう」というものですが、私は、菜食主義者でもなければ、厳格な食事療法をすすめているわけでもありません。むしろ肉は大好物です。

 次回は、肉を美味しく健康的に食べる方法についてお話したいと思います。


注1:BMIとはボディ・マス・インデックスの略で、体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で割った数字です。体重88キログラム、身長2メートルの人なら、88÷2の2乗=88÷4=22となります。


注2:平成23年度の「国民健康・栄養調査」については下記URLを参照ください。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002q1st-att/2r9852000002q1wo.pdf


注3:厚労省の「肥満を防ぐ食事」は下記URLを参照ください。 → 「現在は閲覧できません」
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/seikatu/himan/meal.html 


注4:詳しくは下記医療ニュースを参照ください。
医療ニュース2012年8月27日「太っているだけなら早死にしない?」

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