医療ニュース

2012年5月18日(金) 「アクトス」は膀胱癌のリスクを上げない

 2011年6月9日、フランス当局(Afssaps)は、糖尿病治療薬のアクトス(一般名はピオグリタゾン)が膀胱癌のリスクを上昇させるために新規処方をしないよう通達をおこないました。さらに、フランスの決定を受けてドイツも同様の通達をおこないました。その後、欧州医薬品庁(EMA)は、膀胱癌のリスクに注意しながらであれば処方を認める、つまり使用継続は可能、との決定をおこないました。
 
 これは、膀胱癌のリスクを勘案したとしても、アクトスの治療効果に期待すべき症例が多く、ベネフィト(治療により得る利益)がリスクを上回る、と判断されたことを意味します。
 
 そして、この度イギリスでおこなわれた約21万例の2型糖尿病患者を対象とした大規模研究の結果が医学誌『British Journal of Clinical Pharmacology』2012年5月11日号(オンライン版)に掲載されました(注)。
 
 その結果は、アクトス投与患者と他の糖尿病治療薬投与患者の間に膀胱癌増加の有意な差はなかった、つまり、アクトスと膀胱癌には何の関係もない、というものです。

 少し数字を詳しくみてみると、アクトスを内服している患者100,000人あたり膀胱癌を発症したのは80.2人で、他の糖尿病治療薬投与患者では81.8人だったそうです。
 
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 では、なぜフランス当局の研究では、アクトスが膀胱癌のリスクになる、という結果がでたのでしょうか。はっきりしたことは分かりませんが、アクトス内服者に喫煙、肥満などの膀胱癌のリスクとなる要因を抱えた人が(フランスでは)多かったのかもしれません。
 
 太融寺町谷口医院ではフランス当局の発表を受けて、アクトスを処方している患者さんに個別に話をさせていただきました。また、アクトスの新規処方はこの約1年間控えてきましたが、なかなか血糖値の下がらない患者さんにはこれからは検討すべきかと思われます。いずれにしても、個別に話をさせていただきます。
 
(谷口恭)

注:この論文のタイトルは、「Pioglitazone and bladder cancer: A propensity score matched cohort study」で、下記のURLで概要を読むことができます。
 
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-2125.2012.04325.x/abstract


参考:
医療ニュース
2011年6月12日 「糖尿病治療薬「アクトス」が膀胱ガンのリスク」
2011年6月15日 「糖尿病薬、アクトスに続きビクトーザも注意喚起」