医療ニュース

2017年9月4日 危険な陰毛処理

 過去のコラムでも述べたように、総合診療を実践している太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)には「外陰部の悩み」を訴える女性の患者さんがしばしば訪れます。婦人科に行くと「皮膚科に行け」と言われ、皮膚科を受診すると「婦人科に行け」と言われたという気の毒な患者さんも少なくありません。

 そのコラムでは「精液アレルギー」という稀な疾患について解説しましたが、今回紹介したいのは非常によくある皮膚のトラブルについてです。そしてその原因は「剃毛」もしくは「脱毛」にあります。

 皮膚のトラブルの話に入る前に、私が数年前から感じている素朴な疑問について触れておきます。それは「陰毛処理をする女性が急増している」ということです。これはあまり医学的に意味がないことですからそれほど気に留めていたわけではないのですが、ある論文を読んで「そうか!」と腑に落ちました。

 医学誌『JAMA Dermatology』2016年10月号(オンライン版)に掲載された論文(注1)によれば、米国女性の8割以上が陰毛処理をおこなっています。調査対象は米国の3,372人の女性で、期間は2015年11月と12月、インターネットを用いた質問票での調査です。結果、全体の83.8%に相当する2,778人が陰毛処理をおこなっていました。

 処理をする理由は、衛生的だから(59.0%)、日々のルーチンとして実施している(45.5%)、外性器の魅力向上のため(31.5%)、パートナーの好み(21.1%)となっています。また、理由は明らかにされていませんが、若い女性と高学歴女性に陰毛処理をする傾向が高いという結果がでています。

 多くの"文化"は米国から入ってくると言われますから、日本女性の「処理率」の上昇も米国由来なのかな、と私は思っています。

 今回の本題はここからです。同じ医学誌『JAMA Dermatology』2017年8月16日号(オンライン版)に掲載された論文(注2)によると、陰毛処理する女性の27.1%が処理により皮膚に障害を負った経験があります。研究対象は米国人の女性3,372人で、期間は2014年の1月、やはりインターネットでの調査です。

 どのような障害かについて、最も多いのが「傷」で61.2%、その次が熱傷(23.0%)、発疹(12.2%)、感染症(9.3%)と続きます。また、処理をする人全体の1.4%に医学的な治療が必要とされていたことが判りました(この調査は男性にもおこなわれており、これらの数字は男女合わせてのものです)。
 
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 後半の論文では男女ともにトラブルが多いとされていますが、谷口医院に「陰毛処理後のトラブル」で受診するのは女性が圧倒的に多いといえます。この理由は、米国に比べて日本では男性は陰毛処理をしないということかと思いますが、もしかすると男性は皮膚科を受診して治療を受けており、女性のように、「皮膚科に行けば婦人科に、婦人科に行けば皮膚科に」ということがないからかもしれません。

 谷口医院の女性患者さんの陰毛処理で最も多いトラブルは「毛嚢炎」または「毛包炎」で、毛穴に起こった細菌感染、分かりやすく言えば「ニキビ」です。軽症であれば抗菌薬の外用剤だけで治りますが、最近は内服を使わざるをえないケースが増えてきています。

 また、エステティックサロンでのレーザー脱毛による熱傷(やけど)や、脱毛クリームやワックスによる「かぶれ」も増えています。


注1:この論文のタイトルは「Pubic Hair Grooming Prevalence and Motivation Among Women in the United States」で、下記URLで概要を読むことがでいます。

http://jamanetwork.com/journals/jamadermatology/fullarticle/2529574

注2:この論文のタイトルは「Prevalence of Pubic Hair Grooming-Related Injuries and Identification of High-Risk Individuals in the United States」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://jamanetwork.com/journals/jamadermatology/article-abstract/2648859