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2018年2月2日 インフルエンザワクチンの「謎」が解けたかも...

 インフルエンザのワクチンは有効だが完全ではなく、そのため"誤解"が多いということは過去に何度か述べています。なぜ"誤解"が多いかは過去に書いたもの(注1)を見ていただきたいのですが、今回は我々医療者も以前から感じていたある「謎」が解けたかもしれない、という話をしたいと思います。

 その「謎」とは、「なぜベテランの医師でなく若い研修医に感染するのか」、というものです。医師だけではありません。看護師も他のメディカルスタッフもベテランよりも若手が感染するのです。そのため、若い看護師は「日ごろの体調管理がなってない!」と自分の母親くらいの年齢の先輩看護師から叱られることになります。

 この理由として、よく言われるのが「若手の医師や看護師の方が患者さんと接する時間が長く、熱心であればあるほど感染しやすい」というものがあります。また、「ベテランの医療者は若い頃に何度かかかっているから免疫がある」というものもあります。この2つの意見はどちらも正しいとは思います。ですが、あまり"熱心でない"若手の医療者も感染しますし、何度もかかっている(医療者以外の)高齢者も感染します。そして、高齢者の場合重症化して死に至ることもあります。

 インフルエンザを軽く考える人もいますが、年間死亡者数は、世界で約25~50万人、日本で約1万人と推計されています。(参考:厚労省の該当ページ

 さて、なぜベテランの医療者はインフルエンザにかかりにくいのか、その「謎」が解けたかもしれない研究を紹介したいと思います。それは、「ワクチンは毎年接種で効果が高くなる」というものです。なるほど、医療者なら毎年ワクチンを接種することを義務付けられていますから、今年は忙しくてうてなかった、ということはありません。

 この研究は医学誌『Canadian Medical Association Journal』2018年1月8日号(オンライン版)に掲載されています(注2)。この医学誌はカナダ発のものですが、研究の対象者はスペイン人です。スペインの病院20施設で2013年から2015年のシーズンにインフルエンザで入院した65歳以上の患者について調査されています。

 結果は想像以上のものです。過去4年間で一度もワクチンを接種していない人に比べると、4年連続でワクチンをうっている人は「軽症インフルエンザ」への罹患が31%少なかったのです。31%ならそう多くないかも...、と思えるかもしれませんが、重症例では歴然とした差が出ています。ワクチンを連続して接種していると、集中治療室に入らなければならないような「重症インフルエンザ」を74%減らすことができ、インフルエンザでの死亡は70%減らせることが分かったのです。

 そして、興味深いことに、その年にしか接種しなかった人では未接種の人と比べて大差なかったのです。その年と過去3年間で1回(つまり合計2回)接種していた場合は重症化を55%減らせていました。

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 この研究が正しいとすれば、ベテランの医療者はインフルエンザに感染しにくく、また感染してもより軽症で済むということになります。ということは、若い医療者たちは「日ごろの健康管理がなっていない」からインフルエンザに感染するのではなく、単にベテランの人たちが繰り返しワクチン接種をしているからだ、ということになります。ベテラン勢はもう少し謙虚になった方がいいのかもしれません...。

注1:下記を参照ください。

そもそもインフルエンザのワクチンって効くの? 
毎日新聞「医療プレミア」2016年1月31日「インフルエンザワクチンは必要?不要?」

注2:この論文のタイトルは「Repeated influenza vaccination for preventing severe and fatal influenza infection in older adults」で、下記URLで全文を読むことができます。

http://www.cmaj.ca/content/190/1/E3