はやりの病気

第197回(2020年1月) いろいろな「かぶれ」の総復習

 前回は、すっかり"当然"のようになってしまっている"遅延型食物アレルギー"に高額をつぎこむこようなことを避けてほしい思いから、食物アレルギーの複雑な点について解説しました。今回はその続編として「かぶれ」について事例を取り上げながら紹介していきます。
 
 かぶれの正式病名は「接触皮膚炎」で、文字通り皮膚と何らかの物質が"接触"することによっておこります。正確には接触皮膚炎には「アレルギー性接触皮膚炎」と「刺激性接触皮膚炎」に分けることができて、今回取り上げるのは「アレルギー性接触皮膚炎」の方です。「刺激性接触皮膚炎」というのは、改めて解説するような複雑なものではなく、刺激物に触れれば数分後にかゆくなる皮膚炎のことで"常識的な"ものです。石油に手をつっこんでしばらくすれば痒くなるのが典型例です。

 一方、アレルギー性接触皮膚炎はとてもややこしいものです。理解するのにはまず「基本」を押さえて、その後具体的な例を考えて、それから「例外的な」タイプを考えていきましょう。

 まずは基本からです。アレルギー性接触皮膚炎(以下、単に「接触皮膚炎」とします)とは「何か」に触れて「しばらくしてから」触れた部位に「湿疹」が起こります。基本的には「湿疹」であり、「じんましん」ではありません。「湿疹」と「じんましん」の違いを簡潔に説明するのは意外に困難なのですが、一番大切なポイントは「じんましんは出たり消えたりする」ということです。一方湿疹は一度出るとなかなか消えません。そして接触皮膚炎は通常じんましんではなく湿疹が起こります。まず、ここが一つ目の重要なポイントです(注1)。

 次に重要なのが「しばらくしてから」症状が出現する点です。その物質に触れてから2~3日してから湿疹が生じるのが典型ですが、何度も繰り返していると出現までの時間が短くなってきます。また、一部の物質では触れてからかなり時間が経過してから症状が出ることもあります。例えば「金」の場合、1か月近く経過して(いったん触れてから「触れない状態」が1ヶ月近く経過して)初めて症状が出ることもあります。一方、食物アレルギーでは、前回述べた遅発型食物アレルギーを除き(繰り返しますが"遅延型食物アレルギーではありません)、食直後に出現します。

 例を挙げましょう。食物アレルギーとしてのマンゴーアレルギーがある場合、食べた直後に口腔内の違和感が出現し、重症化する場合は息苦しさや全身のじんましんが生じます。一方、接触皮膚炎としてのマンゴーアレルギーの場合は2~3日してから症状が出ます。典型例は、マンゴーを行儀悪くかぶりついて食べたその2~3日後に口の周りがかゆくなる、というケースです。つまり「マンゴーアレルギー」には2種類あるのです。検査方法も異なり、食物アレルギーとしてのマンゴーアレルギーは血中IgE抗体を測定し(ただし、検査をすると陰性と出ることもあります。検査はあくまでも参考です)、接触皮膚炎の場合はパッチテストをおこないます(ただしマンゴーのパッチテストは一般的ではありません)。

 ここで接触皮膚炎をおこしやすい典型的な物質を挙げていきましょう。ジャンルにわけて簡単にまとめてみます。

〇植物:ウルシ(マンゴーもウルシの仲間です)、ブタクサ・キク(これらは花粉症の原因にもなります。花粉症と接触皮膚炎はマンゴーと同じようにアレルギーの機序が異なります)、サクラソウ(春になると毎年初診の患者さんがやってきます)、イチョウ(銀杏でも起こります)など。

〇金属:三大アレルゲンがニッケル、コバルト、クロム。金や銀でも起こります。太融寺町谷口医院の患者さんで言えば、ピアス、ネックレス、美顔器、ビューラー、(ジーンズなどの)ボタンなどが多いといえます。

〇毛染め:頻度では他を引き離して最多です(参考:はやりの病気第147回(2015年11月)「毛染めトラブルの4つの誤解~アレルギー性接触皮膚炎~」)。

〇生活用品:比較的多いのが眼鏡、手袋(有名なラテックスアレルギーは狭義の接触皮膚炎とは異なります。ラテックス以外の成分による接触皮膚炎はよくあります(参照:はやりの病気第149回(2016年1月)「増加する手湿疹、ラテックスアレルギーは減少?」)、シャンプーや冷感タオル(イソチアゾリノン)、スニーカー(繊維を付着させる糊が原因になることもある)、家具や建築物(ホルムアルデヒドが最多の原因)など。

〇外用薬(製品名は「」をつけています)

・鎮痛剤:「スタデルム」・「アンダーム」(これらが使われなくなってきているのはあまりにも接触皮膚炎を起こしやすいから)、「ボルタレンゲル」、「インテバン」

・湿布:ケトプロフェン(「モーラステープ」)

・抗菌薬:フラジオマイシン(かなり多い。これが含まれる「リンデロンA」も多い)、クロラムフェニコール(膣錠での発症が多い)

・抗真菌薬:「ラミシール」「メンタクッス」「ペキロン」「ニゾラール」など

・麻酔薬:「キシロカイン」(歯科医院受診数時間~数日後に起こる)

・その他:「レスタミン」「オイラックス」など

 接触皮膚炎の特殊型についてみていきましょう。

〇光アレルギー性接触皮膚炎

 アレルギーを起こす物質+紫外線で発症します。最多が湿布で、湿布単独でも接触皮膚炎は起こりますが(上記参照)、湿布を貼った部位に光があたって発症するタイプもあります。また、日焼け止めでも起こすことがあります。これは日焼け止めに含まれる紫外線吸収剤(主にメトキシケイヒ酸エチルヘキシル)が原因です。紫外線吸収剤は環境保護の観点から避けられつつあります。かぶれの視点からも紫外線散乱剤だけのものを選ぶ方がいいでしょう(参考:医療ニュース2018年7月30日「ハワイの日焼け止め禁止の続報~多くの日本製も禁止に~」

〇空気伝播性接触皮膚炎 

 直接触れているわけではないのに近づくと微粒子が皮膚に接触して起こるタイプの接触皮膚炎です。比較的多いのが香水です。自身が香水をつけていなくても香水の匂いを放っている人に近づけば症状が出る人もいます。次に多いのが線香です。これは(後述する)パッチテストで調べることができます。花粉症としての接触皮膚炎も空気伝播性接触皮膚炎に含めることがあります。

〇全身性接触皮膚炎症候群

 これは2つに分けて考えます。ひとつは通常の接触皮膚炎が全身に広がるタイプで、毛染め(パラフェニレンジアミン)が代表です。かぶれるのにもかかわらず、症状を我慢しながら使用し続けると全身に広がり、重症化すれば入院を余儀なくされることもあります。

 もうひとつは食べ物によるもので、私見を述べればこれが(広義の)接触皮膚炎で一番ややこしいものです。例えば、チョコレートを食べれば全身が痒くなる場合、チョコレートによる全身性接触皮膚炎症候群の可能性があります。なぜチョコレートでアレルギー反応が生じるかというと、カカオに含まれる金属が原因です(参照:食物に含まれる金属性アレルゲン)。チョコレートには先述した三大金属のニッケル、クロム、コバルトがすべて含まれていますし、他にマンガン、亜鉛、銅なども含有されています。ややこしいのは、チョコレートにアレルギーがあったとしても(狭義の)金属アレルギーのエピソードがないことも多く、またパッチテストをしても陽性反応にならないこともあるということです。尚、しつこいようですがこれは"遅延型食物アレルギー"ではありません。

 今、述べているのは「全身性接触皮膚炎症候群」ですが、局所的に生じる皮膚疾患もあります。例えば掌蹠膿疱症がそうです。この疾患は掌または足底(あるいは双方)に湿疹が生じる、ときに難治性の疾患です。重症例は全身に症状が及び高額な治療薬を用いることもあります。掌蹠嚢胞症の原因として、日本では「歯科金属が原因」と言われることがありますが(ただし実際にはそれほど多くない)、私見を述べればチョコレートが(原因とまでは言えなくても)悪化因子になっているケースは非常に多いと思います。また、掌蹠嚢胞症は禁煙するとピタッと治ることがあり、この原因はタバコに含まれるニッケルではないかと以前から個人的には思っています。尚、いまだに掌蹠膿疱症は稀な病気だと"勘違い"している人がいますが、昔からよくある疾患です(参照:はやりの病気第17回(2005年9月)「掌蹠膿疱症とビオチン療法」)。

 全身性であろうが、局所的なものであろうが、治りにくい湿疹や再発を繰り返す湿疹があって、アトピー性皮膚炎や尋常性乾癬などとは異なる場合は接触皮膚炎に関連したものである可能性を疑ってみるべきだと(私見ですが)考えています。また、アトピーや乾癬にこういった湿疹が合併していることもしばしばあります。

 接触皮膚炎の検査は「パッチテスト」であり、血液検査では分かりません。また、食物アレルギーや花粉症の検査に有用なプリックテスト、スクラッチテスト、皮内テストなどでも調べることはできません。そして、パッチテストには最低でも3日かかりますからあらかじめそのつもりで望まなければなりません(参照:「Q4 パッチテストをしてほしいのですが・・・」)。以前にも指摘したように、化粧品が使えるかどうかを検討するときに試しに手背などに塗ってみて15分間で症状がでなければ問題ないと考えている人がいますがこれは間違いです。貼りっぱなしの期間が2日、判定には最低でも3日、場合によっては1週間くらいたってから判定すべきこともあります。

 最後にもう一度繰り返しますが、食べ物が原因の接触皮膚炎および全身性接触皮膚炎症候群は"遅延型食物アレルギー"ではありません。

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注1:ただし蕁麻疹が起こる接触皮膚炎も皆無ではありません。稀ではありますが一部の物質で起こり得ます。ただし、この情報を本文に入れると非常に読みにくくなると考え、このように注釈で補足することにしました。最近増えている蕁麻疹型の接触皮膚炎はDEETと呼ばれる虫よけによるものです。蕁麻疹型接触皮膚炎は通常の(湿疹型の)接触皮膚炎に比べて早く症状が出現します。