マンスリーレポート

2022年7月 世界から戦争をなくす方法

 たしか20代の頃、なにかの雑誌で「世界で戦争がなかった日は〇〇日しかない」という内容のコラムを読んだ記憶があります。この出処は思い出せず、ネット検索をしても出てこないので詳しいことは分からないのですが、このコラムの著者は「人間は世界のどこかでほぼ毎日戦争をしている(愚かな生き物だ)」ということを皮肉りたかったわけです。

 シリア、イエメン、アフガニスタン、パレスチナ、イスラム国、スリランカ、ミャンマー、エチオピア、ウクライナなど、21世紀になってからも世界のどこかで戦争または内戦が繰り広げられ、21世紀になってからは「戦争がなかった日」はおそらくゼロだと思います。

 人類の歴史が始まって以来、世界のすべての地域で平和だった時代などほぼないのではないでしょうか。いわば人類の歴史は戦争の歴史でもあるわけです。ということは、人間とは「戦争が好きな生き物」、それが言い過ぎだとしても「戦争を避けられない生き物」くらいは言えるでしょう。

 しかし、私は人類が「戦争をしない生き物」になることは可能だと考えています。太古から変わらなかった「戦争を避けられない」という歴史を塗り替えることなどできるはずがない、とほとんどの人は考えるでしょうが、戦争を「過去のもの」にすることができる方法があります。今回はその考えを披露したいと思います。

 世界から戦争をなくす方法、それは「空港とLCCの拡充」です。これでは訳が分からないと思うので解説していきます。

 例えば、これから日本が韓国やアメリカと戦争を起こすことはあるでしょうか。私はないと思います。では、日本と北朝鮮ならどうでしょうか。私はあり得ると考えています。この違いはどこにあるのかというと、日本と韓国、日本とアメリカは人の動きが活発で互いに深い交流があるからです。この交流の大きさは太平洋戦争の時代とは雲泥の差です。

 90年代初頭、韓国人が日本を訪れることは容易ではありませんでした。それどころか、韓国内では日本の書籍や音楽を入手することは極めて困難で、日本の文化に触れるには大型図書館などに出向かなければなりませんでした。

 私はこの頃に来日した韓国人の若い女性と話をしたことがあります。過去のマンスリーレポート「外国を嫌いにならない方法~韓国人との思い出~」でも述べたのでここでは詳しくは繰り返しませんが、その女性は「大阪や東京というのは、ヤクザが跋扈(ばっこ)した街で、若い女性は決してひとりで歩いてはいけない。男性から声をかけられるようなことがあれば直ちに逃げないといけない」と聞かされていたと話していました。

 今やソウルやブサンに1泊2日で行く日本人もいるほどです(私も1泊で行ったことがあります)。こんなにせわしないプランで来日する韓国人は知りませんが、それでも日本と韓国はお互いに気軽に行ける国になり、友達や恋愛のパートナーが韓国人という日本人も少なくありません。過去の微妙な"歴史"の話から仲違いした日本人男性と韓国人女性のカップルの話は過去のコラム「インド人の詐欺と外国人との話のタブー」で紹介しましたが、それだけで相手のことを憎むようになるわけではありません。

 外務省によると、コロナ流行前の2018年、渡米した日本人は約350万人、韓国には約300万人が渡航しています。中国には270万人、タイは165万人です。これだけ人の行き来があると、渡航先の国で友人ができ、なかには恋愛関係に発展することも大いにあります。「アメリカの奴らは日本人と違って......」「韓国人は......」といった否定的な言葉を事前に聞いていたとしても、実際に行ってみれば「同じ人間で、仲良くできるんだ」ということが分ります。

 では、北朝鮮の人たちは日本人のことをどのように思っているでしょうか。私が90年代初頭に話をした韓国人女性のように、「日本人は冷酷で仲良くなれない」と思っている人たちが多いのではないでしょうか。

 私はウクライナにもロシアにも行ったことがありませんが、今回の戦争が始まる前、ウクライナ人とロシア人の交流はそれほどなかったのではないでしょうか。ウクライナは裕福な国ではなく、一人あたりのGDPが4千ドルに届きません。ロシアは1万ドルほどだったと思いますが今やロシアはかつての共産主義国ではなく貧富の差が大きな国です。ということは、平均的なウクライナ人と平均的なロシア人が頻繁に相手国に行き来して友達が多い、ということは考えられません。プーチン大統領が「ロシア軍はウクライナ市民を救うために戦争をしている」などというデタラメなプロパガンダをロシア国民に主張できるのも、大半のロシア人がウクライナ人を知らないからです。

 イギリスとフランスは歴史上何度も戦争をしていますが、これから起こることはないでしょう。それは、交通の発達ですでに両国を行き来して互いの国に友達や恋人がいるという人が大勢いるからです。日本と韓国は、まだまだ英仏ほどの関係には達していませんが、コロナが終わり、両国の、特に若者が互いの国を行き来する機会が増えれば、戦争が起こることはないと思います。

 ならば、世界中の、特に若者が(戦争で駆り出されるのは若者です)、全世界を飛び回って各国で友達をつくるようにすれば、国と国との戦争が起こるリスクはぐんと低くなります。そのためには、出入国の手続きを簡単にして、渡航の費用を安くする必要があります。よって、空港を拡充して、LCCの便を増やせば戦争が起こらない、というのが私の理屈です。

 日本と北朝鮮が戦争を起こすリスクを回避しようと思えば、十万人くらいの単位で学生の交換留学を促進すればいいのです。若い学生どうしが時空間を共有すれば、自然に友情や愛情が生まれます。若者どうしの交流が活発化すれば、それは上の世代にも伝播していきます。そうなれば戦争は起こり得ません。もっとも、北朝鮮トップの御仁はこのような案は即却下するでしょうが。

 人間というのは奇妙な生き物で、集団で行動すると、他の集団のメンバーと争いごとを起こす一方で、自分たちとは背景の異なる他の集団のメンバーに対して興味をもち、友情や愛情を発展させます。そして、集団どうしが対立するときには、必ず「相手が悪で自分たちが正義だ」という大義名分をつくりだします。だから、集団のリーダーは「自分らが正しいんだ」というプロパガンダをメンバーに植え付けようとするわけです。

 これに抗うには、そういうリーダーの馬鹿げたプロパガンダが広まる前に、集団の各メンバーが相手側の集団のメンバーと積極的に交わるようにすればいいのです。過去のコラムでも述べたように、我々は「〇〇国の人の性格は......」という話が好きでたいてい盛り上がります。日本人どうしの「△△県出身者は......」という話と同じです。しかし、もちろんどこの国にも地域にもいろんな人がいます。「〇〇国の人は......」という話は"ネタ"にとどめておいて、世界中の若者がいろんな地域に行って自分で確かめるようにすればきっと世界は平和になります。

 そのためにはコロナにはそろそろ大人しくしてもらって、我々人間は空港とLCCの拡充に努めるべきです。コロナの影響もあって現在世界的な不況が訪れようとしていますが、私が政治に携わる立場にいれば、自国はもちろん他国にも働きかけて旅行業界に大型投資を仕掛けます。不況から抜け出すことが期待できるだけでなく、世界中で若者の交流が活発になり国際間の友情や愛情が芽生えることにより、きっと世界に平和が訪れるからです。