医療ニュース

2012年6月11日(月) やっぱり「アクトス」は膀胱癌のリスクか

 いったい、アクトスで膀胱癌のリスクは上がるのか、そうでないのか・・・。

 2012年5月11日号(オンライン版)の『British Journal of Clinical Pharmacology』に掲載された論文では、「アクトスは膀胱癌のリスクにならない」という結論が導かれていました(詳しくは下記「医療ニュース」を参照ください)。これで安心か、と多くの医療者が感じていたところ、『British Medical Journal』の2012年5月31日号(オンライン版)では、再びこれをくつがえす論文が掲載されました(注1)。
 
 カナダ、モントリオールのJewish General Hospital臨床疫学センターのLaurent Azoulay氏らが、UKのデータベースGeneral Practice Research Database(GPRD)を用いて分析した結果、「アクトスを2年以上服用し、累積服用量が28,000mgを超えると、膀胱癌の発症リスクが2倍に上昇していた」、と結論づけています。
 
 この研究では、1988~2009年に新規に経口糖尿病治療薬を処方された患者115,727例(平均64.1歳)が対象とされています。平均4.6年の追跡調査期間中に膀胱癌と診断されたのは470例(10万人・年当たり89.4)に上ります。
 
 このなかでアクトスが処方されていたのは19例(5.1%)で、対照群では191例(2.9%)だったそうです。これらを統計学的に解析すると、アクトス投与による膀胱癌発症の相対リスク(RR)は1.83となるそうです。さらに、アクトス投与量が多ければ多いほど膀胱癌のリスクが上昇するという結果となり、2年以上かつ累積服用量28,000mg以上では相対リスクは2.54にもなるとのことです。
 
 アクトス(一般名はピオグリタゾン)はチアゾリジン系というグループに分類されるのですが、興味深いことに、同じチアゾリジン系のAvandia(日本では未承認です。一般名はロシグリタゾンといいます)では、膀胱癌のリスク上昇は認められなかったそうです。
 
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 太融寺町谷口医院では、2011年6月からフランス当局の発表を受けて、アクトスの新規処方を見合わせてきました。2012年5月12日の『British Journal of Clinical Pharmacology』の論文が公表されたことで、再び新規処方を検討していたのですが、今回の『British Medical Journal』の発表で、新規処方の見合わせは当分続けざるをえない、と考えています。
 
 それにしても『British Journal of Clinical Pharmacology』でアクトスの安全性が主張されて1ヶ月もたたないうちにまったく逆の結論の論文が公表されたことは興味深いといえます。しかも、どちらの研究も対象としているのはGPRDという同じデータベースなのです。ではどちらの研究に信憑性があるか、という点については、より権威のある『British Medical Journal』かと考えられますが(より厳しい審査を受けているはずですから)、今後の展開にも注目したいと思います。
 
 現在糖尿病の薬にはすぐれたものがたくさんありますから、アクトスが使えなくなったからといって困窮する患者さんはほとんどいないと思われます。アクトスに限らず薬の副作用にはこれからも注意していきたいと思います。
 

(谷口恭)

注:この論文のタイトルは、「The use of pioglitazone and the risk of bladder cancer in people with type 2 diabetes: nested case-control study」で、下記のURLで全文を読むことができます。
 
http://www.bmj.com/content/344/bmj.e3645

参考:医療ニュース
2012年5月18日 「「アクトス」は膀胱癌のリスクを上げない」
2011年6月12日 「糖尿病治療薬「アクトス」が膀胱ガンのリスク」
2011年6月15日 「糖尿病薬、アクトスに続きビクトーザも注意喚起」