メディカルエッセイ

第129回(2013年10月) 危険な「座りっぱなし」 

 前回は、「同じ時間に起きて同じ時間に寝ること」が生活習慣病にはもちろん、片頭痛やうつ病の改善にもつながる、という話をしました。

 今回は、もう一度生活習慣病に話を戻したいと思います。前回この「同じ時間に起きて同じ時間に寝る」という習慣を紹介したのは、医学誌『Stroke』に掲載された脳卒中の予防のための「7つの生活習慣」に付け足したかったからです。

 私はこのサイトの「マンスリーレポート」2013年7月号「感染症と感染症以外のすべての病気の違いとは?」で、「感染症以外のすべての病気は自己内部に原因があり・・・」、と述べました。さらにこれは、「感染症以外のすべての病気はかなりの部分で予防することが可能である」、と言うこともできます。そして、次のステップとして、「ではどのように予防すればいいのか」ということを考えていけばいいわけですが、その答えが前回紹介した「7つの生活習慣」と、私が提唱した「同じ時間に起きて同じ時間に寝る」と言いたいわけです。

 今回は、この私の考えをもう少し詳しく述べたいと思います。

 感染症以外の病気といっても実に様々なものがあり、分類するのも大変ですが、ざっと眺めてみると、生活習慣病、悪性腫瘍、精神疾患、アレルギー疾患、自己免疫疾患、先天性疾患、遺伝的な疾患、くらいになると思います。このうち生死にかかわる病気に絞ってみてみると、ほとんどが生活習慣病と悪性腫瘍ということになります。悪性腫瘍のなかには感染症が原因であるもの(例えばB型肝炎ウイルスによる肝臓ガン)や、遺伝的な要因の強いもの(家族性大腸ポリポーシスなど)もありますが、悪性腫瘍の大半は生活習慣が関与しています。

 ということは、例外があることは認めますが、頻度で言えば、生死にかかわるほとんどの病気は生活習慣に関連がある、ということになります。ここは重要なところなので、しっかり確認しておきたいと思います。式にすると、

 生死にかかわる疾患 = ①感染症 + ②生活習慣に関連する疾患(脳卒中、心疾患、悪性腫瘍など) + ③一部の遺伝的疾患 + ④一部のアレルギー疾患・自己免疫疾患 + ⑤外傷・事故 + ⑥自殺・他殺 + ⑦その他
 
 となります。①の感染症は発展途上国であれば死因のトップになります。③④⑤⑥⑦は生活習慣の改善ではどうしようもないものもありますが、これらをすべて合計しても②での死亡者とは比較にならないほど少数です。

 ということは、健康に長生きしようと思えば、感染症に気をつけて(正しい知識をもつ、ワクチン、予防薬など)、生活習慣の改善をおこなうのが賢明であることがはっきりとしてきます。

 では、生活習慣の改善に何をすればいいか、ということになるわけですが、『Stroke』の7つの生活習慣に、「同じ時間に起きて・・・」を加えるべき、というのが前回述べたことです。

 今回はあと2つ、生活習慣に関連する疾患の予防になる対策について述べたいと思います。7つでも覚えるのが大変なのに増やせばいいってもんじゃないだろ、という声が聞こえてきそうですが、後で覚え方も言いますのでもう少しおつきあいください。

 1つは「ストレス」です。ストレスを取り除くのは大変ですが、ストレスがほとんどの疾患の原因もしくは悪化因子になっていることは多くの人が実感していることでしょう。ストレスがあると、それだけで規則的な生活がしにくくなります。眠れない、朝起きられないなどという睡眠障害にもつながり、こうなれば「同じ時間に起きて同じ時間に寝る」というのが困難になります。ストレスからジャンクフードを食べ過ぎてしまうこともあるでしょう。やめていたタバコを再び吸い出した・・・、という人もいるに違いありません。ストレスを減らすことはときに簡単ではありませんが、それでもストレス軽減のために何ができるかは常に考えていくべきです。

 生活習慣に関連する疾患の予防に必要なもうひとつは「座りっぱなしを避ける」ということです。過去にこのサイトで何度かお伝えしましたが(下記医療ニュース参照)、現在座りっぱなしのリスクは世界中で大変注目されています。長時間テレビの前に座ってお菓子でも食べながらダラダラしている様子が不健康なことは誰にでもわかりますが、現在議論されている座りっぱなしというのはそういうレベルのものではありません。例えば、定期的な運動をしていようが、適正な体重を維持し健康的な食事をしていようが、座りっぱなし、ただそれだけで生活習慣病のリスクが上昇する、というわけです。

 もう一度言いますが、定期的な運動をしていたとしても、長時間座りっぱなしの生活をすれば、運動のベネフィット(利益)が台無しになることを最近の研究は示しているのです。これではまるで「喫煙」のようです。いくらいい食生活をしていようが、定期的に運動をしていようが、タバコを吸っていれば生活習慣病のリスクが上昇するということは周知されていると思いますが、そのタバコと同じように「座りっぱなし」がリスクになるのです。実際、アメリカでは「座りっぱなしの健康被害は喫煙に匹敵する」と言われることが増えてきています。

 これまでの予防医学の歴史のなかで「座りっぱなし」の弊害はそれほど注目されていませんでしたし、現在でも日本ではそれほど関心が高いとはいえないでしょう。しかし近いうちにこのことは大きく注目されるようになりマスコミなどでも報道されるようになってくると私はみています。

 さて、ここで生活習慣病の予防も含めて、健康を維持するために何をすればいいか、ということをまとめてみたいと思います。まずは前回紹介した医学誌『Stroke』に掲載された7つの生活習慣、すなわち、①血圧、②脂質(コレステロール)、③血糖、④BMI(体重÷身長の2乗)、⑤運動、⑥食事、⑦禁煙、があります。これに⑧「同じ時間に起きて同じ時間に寝る」を加えました。そして、⑨ストレスコントロール、さらに⑩座りっぱなしを避ける、の2つを加えました。

 これでは多すぎて覚えにくいので整理してみたいと思います。これらを分類すると(やや恣意的な分類ではありますが)、(1)楽しくできること、(2)とにかくやめなければならないこと、(3)検査データ、の3つに分けられます。

 具体的には、(1)楽しくできること、には、⑤運動(運動は苦痛ではなく誰でも楽しんでおこなうことができますし、そうすべきです)、⑥食事(食事は制限するだけでなく栄養のあるものを楽しんで食べるべきです)、⑧同じ時間に起きて同じ時間に寝る(早起きが習慣になるといいことばかりです。良質な睡眠の確保にもつながります)、があります。(2)とにかくやめなければならないこと、には、⑦禁煙、⑨ストレス、⑩座りっぱなし、があります。血圧、コレステロール、体重(BMI)、血糖の4つは、検査(測定)で分かるものです。

 これらを「3つのEnjoy、3つのStop、4つのデータに注意して」とテンポよく口ずさむと覚えやすくなります。まとめると次のようになります。

3つのEnjoy
・Exercise(運動は楽しくおこないましょう)
・Eating(食事は身体にいいものを楽しんで食べましょう)
・Early-morning waking up(毎朝早起きして1日を充実したものにし、夜はぐっすりと眠りましょう)

3つのStop
・Smoking(タバコはすぐにやめましょう)
・Stress(ストレスは上手にコントロールしましょう)
・Sitting too much(喫煙に匹敵するほど危険です)

4つのデータ
・血圧
・コレステロール
・体重(BMI)
・血糖

 健康で長生きするために、みなさんも是非実践してみてください。


参考:医療ニュース
2013年4月2日「座りっぱなしの生活がガンや糖尿病のリスク」
2010年7月30日 「座っている時間が長い人は短命?」

マンスリーレポート(2013年7月号)「感染症と感染症以外のすべての病気の違い