はやりの病気

第157回(2016年9月) 最近増えてる奇妙な食物アレルギー

 食物アレルギーというのは、メディアでよく取り上げられるからなのか、多くの質問や相談が寄せられます。最近は少し下火になったとはいえ、依然「遅延型食物アレルギー」についての質問も相変わらず多く、マスコミからの取材依頼もしばしばあります。過去にも述べたように「遅延型食物アレルギー」というものは否定されているものです。一部の情報で、特定の食物のIgG抗体が上昇するのが遅延型食物アレルギーとしているものがあるようですが、日本アレルギー学会のサイト(注1)に記載されているように「血清中のIgG抗体のレベルは単に食物の摂取量に比例しているだけ」です。

 しかし、食物アレルギーを患っている患者さんは年々増えており、しかも従来にはなかったような新しいタイプのものが増えているような印象があります。今回は、そのようなこれまではあまり注目されていなかった食物アレルギーを紹介していきます。

 まず1つめに取り上げたいのは「ビールアレルギー」です。以前は何の問題もなくビールが飲めていたのにもかかわらず、あるときから飲むとすぐに全身に蕁麻疹(じんましん)が出現し、それがだんだんひどくなってきた、というケースです。

 全例とは言いませんが、このビールアレルギーの患者さんの大半は、アトピー性皮膚炎か、もしくはアトピーがなくても手に湿疹がある(あった)人です。そして、かなりの人が過去に居酒屋やビアガーデンでアルバイトの経験があります。診察時に、「居酒屋でバイトしてたでしょ」と言うと、「なんで知ってるんですか?!」と驚かれることもしばしばあります。

 このメカニズムを解説しましょう。これはこのサイトで過去に何度か紹介している「食物アレルギーの機序についての二通りのアレルゲン曝露仮説」と呼ばれるものです。これでは何のことか分からないので、改めてかみ砕いて説明します。

 従来の考え方では、食物アレルギーは、元々遺伝的に決まっているか、あるいは食べているうちにアレルギーが成立するのではないかとされていました。それがそうではないことが分かってくるようになり、正しいと考えられるようになってきたメカニズムは「食物アレルギーの機序・・・仮説」でクリアカットに説明できます。これはまだ「仮説」の域を超えていないのですが、最近、正確であることを強く示唆する事象がいくつかでてきています。

 その代表が日本で生じた「茶のしずく石鹸」によるコムギアレルギーです。従来コムギを普通に食べていた人たちが、コムギを少し食べただけでアレルギー症状が出現し、ひどい場合は救急搬送される例が相次ぎました。コムギアレルギーがなぜ生じたのか。それは「茶のしずく石鹸」に含まれるコムギの成分が皮膚から身体に侵入することで、身体がそのコムギ成分をアレルゲン、つまり「敵」とみなすようになったからです。つまり、一部の食物は口から入るとアレルゲンにはならず(これを「免疫寛容」といいます)、皮膚から体内に侵入するとアレルギーが成立し(これを「感作」と呼びます)、いったんアレルギー(感作)が成立すると、その食物を普通に食べてもアレルギー症状が生じるのです(注2)。

 これまでは問題なく食べていたものであっても、その食べ物が皮膚から体内に侵入するとアレルギーになってしまう。これが「食物アレルギーの機序・・・仮説」の実態です(注3)。本当にこのようなことがあるのか・・・。この仮説が提唱されたときは懐疑的な声も少なくなかったものの、次第にこれを裏付ける事象が増えてきているのです。

 ビールアレルギーもそのひとつです。ビールアレルギーの大規模調査はみたことがありませんが、私の実感として、多くの人は過去に居酒屋やビアガーデンでアルバイトをしており、そこでビールがこぼれて炎症があった皮膚に付着した、という経験をもっています。そして、ビール酵母もしくは麦芽のIgE抗体を調べると陽性となります。他のほとんどの食物アレルギーと同じように、いったんビールアレルギーになってしまえば、対策としてはビールを避けるしかありません。アトピー性皮膚炎や手湿疹がある人は、アルバイトの選択を考え直した方がいいかもしれません。

 次に紹介したいのは、マカロンやカンパリなどの赤色の食べ物・飲み物です。この原因はこのサイトで過去にも紹介したことのあるコチニールが原因です(注4)。2012年5月、消費者庁は、「コチニール色素に関する注意喚起」というタイトルのニュース・リリースを公表しました(注5)。我々医師の実感としては、この発表の前からも、マカロンやカンパリのアレルギーはときどき経験していました。特に珍しいと言えるものでもないために、「マカロンやカンパリを避けましょうね」で済ませていましたが、私には以前から疑問に思っていたことがありました。それは、これらのアレルギーを持っているのは全員が女性、ということです。消費者庁のニュース・リリースには性差については触れられていません。しかし私はこれまで男性のこれらのアレルギー患者を診たことがありません。なぜなのでしょうか。マカロンを好んで食べるのは男性よりも女性でしょうし、バーでカンパリソーダを注文するのは女性が多いからか・・・。そのように考えたこともありましたが、答えは別にありそうです。これを解く「鍵」も「食物アレルギーの機序・・・仮説」にあります。

 なぜ、女性にだけコチニールアレルギーが起こるのか。それは女性が口紅を使うからです。(ですから口紅を用いる男性にも当然起こることになります) 一部の口紅には、赤色を出すためにコチニールが用いられているのです。もっとも、コチニール入りの口紅を使えば誰もがアレルギーを発症するわけではありません。おそらく、口紅があれていたり(口唇炎)、口角炎があったりして皮膚の微細な傷からコチニールが体内に侵入したのでしょう。それで「感作」されアレルギーが成立するというわけです。ですから、これから対策を立てるとすれば、コチニール入りの口紅を避けることと、いったんアレルギーが発症した場合は、マカロン、カンパリは避け、赤色の食べ物をみたときは原料を確認することです。

「食物アレルギーの機序・・・仮説」で説明できそうなアレルギーで、最近増えていると私が感じているのが「ココナッツアレルギー」です。ココナッツ入りの食べ物・飲み物を食べた直後に身体がかゆくなるというのが典型的な症状です。そして、大半の例に、ココナッツオイルでマッサージを受けた経験があります。ココナッツは美味しいですし健康にもいいものですから、食べられなくなることは避けたいものです。少なくとも、湿疹や傷があるときにはココナッツオイルを用いたマッサージは避けるべきだと思います。

 最後に紹介したいのが「納豆アレルギー」です。私自身はまだ患者さんを診たことがないのですが、学会などでは最近よく紹介されています。納豆アレルギーが興味深い点は2つあります。1つは、症状が出るのが遅く、納豆を食べてから半日から1日くらいたってから出る、という点です。通常、食物アレルギーは食べた直後から遅くとも1時間くらいして出ますから、納豆アレルギーは例外的な食物アレルギーと言えます。

 もうひとつ納豆アレルギーで興味深いのが、先に述べた、コムギ、ビール、コチニール、ココナッツなどとは異なり、納豆が皮膚から入ったことが原因ではない、ということです。では原因は何なのか。これを解くヒントは「納豆アレルギーの大半はサーファー」という事実です。では、なぜサーファーにアレルギーが起こるのか。この答えは「クラゲに刺されるから」です。つまりクラゲの持つネバネバとした成分(ポリガンマグルタミン酸と呼ばれています)が皮膚から体内に侵入し「感作」が成立し、そのネバネバ成分と構造が似ている納豆のネバネバ成分を食べるとアレルギー症状が出現するというわけです。

「食物アレルギーの機序・・・仮説」が「仮説」でなくきちんとした「原理」と認められるにはまだもう少し時間がかかるでしょう。また、どんな食べ物でもこの仮説が当てはまるわけではなく、例えば化粧品には、白ワイン、米、日本酒などが原料に使われているものもありますが、コムギやココナッツのようなアレルギーが生じたという報告は聞いたことがありません。

 しかしながら、この仮説で説明がつく、我々が気づいていないアレルギーもまだまだあるのではないかと私は思っています。例えば、ピーナッツアレルギーは、この機序で説明できるのでは?と思えてきます。口の周りが荒れている子供が行儀悪くピーナッツバターを食べるのは危険ですし、ピーナッツの破片がころがっているような床で赤ちゃんがハイハイをするのは避けるべきだと思います。一部のカニアレルギーは、カニを頬張ろうとしたときにカニの甲羅で口の周りが切れてそこからカニの身が入ったのでは・・・? 最近増えている果物アレルギーも、もしかすると行儀悪くかぶりついたときに果物エキスが口角炎から侵入したのでは・・・? 

 10年後のアレルギーの教科書が大きく改訂されているかもしれません。 

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注1:下記を参照ください。

http://www.jsaweb.jp/modules/important/index.php?page=article&storyid=51

注2:これをイラストで示したものが下記です。

http://www.stellamate-clinic.org/images_mt/child.pdf

注3:詳しくは下記を参照ください。
メディカルエッセイ第136回(2014年5月)「免疫学の新しい理論」

注4:下記を参照ください。
医療ニュース2012年5月28日「コチニールのアレルギーに注意!」

注5:下記で読めます。

http://www.caa.go.jp/safety/pdf/120511kouhyou_9.pdf