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2020年12月27日 Z薬は認知症の人の骨折・脳卒中のリスク

 「一番弱い睡眠薬って聞いたんでマイスリーを出してください」と言われて、大変驚かされたという話は以前どこかに書きました。なぜ、マイスリー(マイスリーは商品名。ゾルピデムが一般名。ここからはゾルピデムで統一)が一番弱いと言われているのかはまったく謎なのですが、このように言われることがときどきあります。

 ゾルピデムは一番弱いどころか、取り返しのつかない悲惨な事件の原因になっていることは過去にも述べました(はやりの病気第124回(2013年12月)「睡眠薬の恐怖」)。

 ベンゾジアゼピン系睡眠薬(以下BZ)が依然性が強く、大変危険であることも過去に何度も述べています(例えば、はやりの病気第164回(2017年4月)「本当に危険なベンゾジアゼピン依存症」

 ゾルピデムはベンゾジアゼピンに似ているのですが薬理学的な構造が異なるために、以前は「非ベンゾジアゼピン系」と呼ばれていました。しかし、この表現であれば「BZとは異なり安全なのかな......」と誤解の元になります。最近はゾルピデムのような薬は「Z薬」と呼ばれるようになってきました。ゾルピデムの他にはゾピクロン(アモバン)、エスゾピクロン(ルネスタ)、ザレプロン(国内未承認薬)があります。いずれもZで始まるか、その関連品であるが故にZ薬と名付けられたのです。

 そのZ薬を認知症の人が使用すると、骨折や脳卒中のリスクが上昇することが報告されました。医学誌『BMC Medicine』2020年11月24日に「認知症患者の睡眠障害に対するZ薬の副作用:人口ベースのコホート研究(Adverse effects of Z-drugs for sleep disturbance in people living with dementia: a population-based cohort study)」という論文が掲載されました。

 研究は、睡眠障害があるがBZもZ薬も使用していない人、Z薬が使用されている人、BZが使用されている人で比較が行われました。Z薬を「高用量」で使用している人は、Z薬もBZも使用していない人に対して、大腿骨近位部骨折のリスクが1.96倍、脳梗塞のリスクが1.88倍になることが判りました。

 尚、この論文でのZ薬の「高用量」の定義はゾピクロン7.5mgです。日本ではゾピクロンは7.5mgと10mgが発売されていますから、どちらを選んでもすでに高用量となります。

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 大腿骨近位部骨折はかなり難儀な骨折で、寝たきりになる可能性が高く、1年後の死亡率は1~2割、1年が経過しても骨折前の歩行状態に回復しない割合は50%と言われています。

 どうしてもZ薬が必要なら半錠から始めるべきだ、と言えるかもしれませんが、当院の経験でいえば、Z薬は(もちろんBZも)安易に手を出すべきではありません。最近当院で患者さんから聞く「睡眠障害」の訴えは、「眠れないから睡眠薬を出してほしい」よりも「睡眠薬をやめたいけどやめられない」が増えてきています。