はやりの病気

第60回 虫刺されにご用心 2008/8/22

今年の夏にすてらめいとクリニックを受診した患者さんに多い疾患のひとつが「虫刺され」です。

 「たかが虫刺され」と思う人も多いでしょうが、虫刺されはときに重症化することもあります。

 まず、日本の夏にどこにでも登場する"蚊"の虫刺されについて少し詳しくお話いたします。

 「子供が蚊に刺されて全身が腫れあがった」と言って、小さな子供を連れて来られるお母さんがおられます。お母さん方にしてみれば、「なんで自分たち大人は蚊に刺されてもたいしたことがないのに子供はこんなに腫れるの」という気持ちになられるようです。

 これは、虫刺されに対するアレルギー反応の起こり方が大人と子供では異なるからです。虫に刺されると虫の唾液が皮膚に入ってくるのですが、この唾液に対するアレルギー反応が虫刺され症状の原因です。そして、虫刺されのアレルギー反応には、「即時型」と「遅延型」があります。通常、大人であれば「即時型」の反応を示すことが多いと言えます。これは虫(蚊)に刺された直後に皮膚が少し盛り上がる現象で、痒み自体はたいしたことがありません。(ムヒなどの)市販の痒み止めで充分対処できます。

 それに対して「遅延型」は、刺されてから1~2日程度たってから症状が現れます。この場合、強いかゆみが現れ、ときに大きく腫れあがり、この状態が数日間続きます。「遅延型」に対しては、市販のかゆみ止めがあまり効かずに、ステロイド外用薬が必要になります。子供の場合は、免疫系のシステムが充分に確立されていないために「遅延型」が起こりやすいと考えられます。

 ときどき、「子供にステロイドのようなきつい薬は使いたくない」というお母さんがおられますが、適切なタイミングで適切なステロイドを使わなかった場合、虫に刺された跡が長期間残ることがありますので、やみくもにステロイドを怖がるのではなく、医師の指導の下で上手にステロイドを使うことが必要です。

 「遅延型」の反応は大人に対して現れることもあります。この場合は、やはりステロイドの外用薬を適切に使用することが早くきれいに治すコツです。(ですから、「たかが虫刺され」と思わずに医療機関を受診することが必要です)

 さて、虫刺されで医療機関を受診する人は年々増えているように思われますが(おそらく私以外の医師も同じように感じていると思います)、これはなぜなのでしょうか。

 その理由のひとつが、地球温暖化ではないかと言われています。暖かくなったことにより虫にとって望ましい環境となり、その結果人を刺す被害が増えているというわけです。

 もうひとつは、海外からの輸入品に付着して日本に入ってきている虫が増えているということです。

 90年代後半にマスコミをにぎわせた「セアカゴケグモ」を覚えているでしょうか。セアカゴケグモが日本に上陸したのは、オーストラリアから荷物と共に大阪港に侵入したことが原因と言われています。国立感染症研究所の調査では、すでにセアカゴケグモは関西の広域に棲息していることが確認されています。

 また、中国からの貨物と一緒に「南京虫」が国内のいたるところに侵入しているという情報もあります。南京虫に刺されると、強烈なかゆみと腫れに悩まされることになります。

 虫刺されには命にかかわるものもあります。このウェブサイトの「医療ニュース」でもお伝えしましたように、今年は宮崎県でダニに刺された女性が「日本紅斑熱」で死亡しています。同じくダニが媒介する「ライム病」や「ツツガムシ病」もときに発熱やリンパ節の腫れなどの全身症状に悩まされることがあります。

 蚊が媒介し命にかかわる病気には日本脳炎があり、日本脳炎ウイルスが三重県でブタに新規感染したことは「医療ニュース」でお伝えしました。

 日本脳炎以外に、蚊が媒介して命にかかわる病気にマラリアとデング熱があります。どちらも日本で感染することは現時点ではないとされていますが、デング熱については今後注意が必要になるでしょう。

 デング熱はタイやマレーシアなど熱帯地方に生息している「ネッタイシマカ」や「ヒトスジシマカ」が媒介するのですが、デング熱は去年あたりから発症が増えており、現在台湾にまで北上してきています。

 また、タイでも今年は異例の流行を見せており、日本企業もたくさん入っているラヨン県では今年に入ってデング熱に罹患した人がすでに1,400人を超えており、そのうち2人が死亡しています。(デング熱の重症型のデング出血熱は致死的な感染症です) これを緊急事態と受け止めたラヨン県では5千万バーツ(約1億5千万円)をデング熱対策に割り当てるそうです。(報道は8月11日のBangkok Post)

 虫刺されがひどいときは、できるだけ早いうちに医療機関を受診することが必要です。特に発熱やリンパ節腫脹などが出現したときには自分で様子をみるのではなくすぐに受診するようにしましょう。

 強い症状が出たときには医療機関を受診するのが最善ですが、虫刺されには予防が大切です。まず、虫がいそうなところに行く場合は長袖・長ズボンを着用するようにしましょう。キャンプなどをするときには蚊取り線香は必需品です。電池式の携帯用蚊取り器(虫の嫌がる音がでる小さな器械)も有効です。

 それから、虫除けの塗り薬も持参するようにしましょう。スプレー型のものもありますが、私は個人的にはクリームタイプの方がより効果があると感じています。クリームタイプの方がまんべんなく塗れますし、顔にはスプレーを拭きつけることができないからです。(虫除けの塗り薬は薬局に売っていますが、海外では普通のコンビニにも置いていることが多いですから暖かい国に行ったときには必ず購入しましょう)

 まだまだ暑い日が続いており、山や海にキャンプに行ったり、海外旅行を楽しんだりする人も少なくないでしょう。旅行から帰ってから、全身が腫れあがってあわてて病院に、ということがないように・・・。

参考:
 2008年8月7日 宮崎の女性がダニに刺されて死亡
 2008年7月24日 豚が近くにいる人は日本脳炎に注意を!
 2008年5月19日 日本紅斑熱に注意
 2008年4月3日 ブラジルでデング熱と黄熱が大流行
 2008年2月19日 タイでデング熱が急増