メディカルエッセイ

93 ダイエットの2大法則 2010/10/20

やせる秘訣を教えてください・・・

 診察室でこのような訴えをする患者さんは、当院開院の2007年から今も絶えません。なかには、随分と遠いところから来られて「どうすればやせることができるか」という相談をされる方もいます。当院では、特に「ダイエット外来」のようなものをしているわけでもないのですが・・・。

 やせ薬をください・・・。

 ダイレクトにこのように話す人もいますが、原則としてこのような薬の処方はできません。では、「飲めばやせる薬」はないのか、と問われれば、ないわけではないのですが、"安全な"薬はないのです。

 少し詳しく説明すると、「マジンドール」(商品名は「サノレックス」)という薬があって、日本の医療機関でも肥満外来をおこなっているところでは処方されることもあります。しかしながら、この薬は覚醒剤(アンフェタミン)に類似した物質であり、食欲を抑えることはできるものの(覚醒剤と似ているのですから当たり前です)、長期で使えば依存性が生じるため(これも覚醒剤と似ているのですから当然です)、処方には厳格な規定があります。最大処方期間は3ヶ月とされていますし、処方できるのはBMI35以上と決められています。BMIは体重(キログラム)÷身長(メートル)の2乗ですから、例えば身長160cmの人であれば、BMIが35以上となるのは、89.6キログラム以上の体重がなければなりません。

 マジンドール以外ではシブトラミンという薬があり、米国を含むいくつかの国では数年前から肥満改善薬として処方されていました。ところが最近(2010年10月8日)、FDA(米食品医薬品局)が、米国内でのシブトラミンの販売を中止することを発表しました。販売元のアボット社は、米国以外にもカナダ、オーストラリアを含む他国でも販売中止することをすでに決定しているそうです。シブトラミンは、日本では、エーザイによって2007年11月29日に医薬品製造販売承認申請されていますが、2009年9月26日に取り消されています。

 シブトラミンは日本では認可されていませんが、いくつかの市販のサプリメント(大半はインターネットで取引されています)などに含まれていたことが発覚し、ときどき摘発されています。(下記医療ニュース参照) もちろん、販売中止となるくらいですから、シブトラミンは副作用が少なくなく、当院にも「"いかがわしいやせ薬"を飲んで、動悸やめまいが出現した」、と言って受診された患者さんがシブトラミンを含むサプリメントを飲んでいた、という例がいくつかありました。

 また、昔からよくあるやせ薬に「甲状腺末」があり、これもやせることを謳ったサプリメントに入れられていることがあり、ときどき発覚しています。(もちろん違法です) 甲状腺機能亢進症に罹患すると急速にやせますから、甲状腺末を服用すればやせるのは当然なのですが、同時に動悸や発汗、イライラといった副作用も当然出現しますから、長くは服用できませんし、短期間の服用でも大変危険です。

 結局のところ、安全なやせ薬というのは存在しないと考えるべきなのです。

 では、やせたいときにはどうすればいいのでしょうか。

 まず、基本的なところをおさえておきたいと思います。今回お話する原理原則は2つあります。これを「ダイエットの2大法則」と勝手に命名したいと思います。まず1つめの法則、すなわち「ダイエットの第1法則」は「消費エネルギー>摂取エネルギー、となれば必ずやせる」というものです。

 こう言えばすごく単純なことになりますが、厳密に言えばもう少し複雑な要因があります。「消費エネルギー」は、誰もが同じように計算できるわけではありません。例えば、先に少し述べたように甲状腺機能が亢進すれば、じっとしていてもエネルギーはどんどん消費されていきます。最近では、レプチンやグレリンといったホルモンがエネルギーの消費に関与していることもわかってきています。また、食後に汗をかきやすい人は褐色細胞と呼ばれる細胞が活発に働くからで、このタイプの人は汗をかかない人に比べるとエネルギーを消費しやすいと言えます。

 ここでのポイントは、こういった「エネルギーを消費しやすいかどうかはかなりの部分で遺伝的に決まっている」、ということです。じっとしていてもエネルギーを消費しやすい人としにくい人がいるのは、大方の部分であらかじめ決まっていて、これを変えることはできないのです。したがって、じっとしているだけではエネルギーが消費されにくい人は、消費されやすい人よりも積極的に身体を動かす必要があるということになります。

 ちなみに、エネルギーが消費されにくい体質の人は自らを"損"と考えるかもしれませんが、生物学的には"得"と言えます。食べ物が手に入りにくかった時代には"有利に"生きられたのです。

 次に「摂取エネルギー」について考えてみましょう。「消費エネルギー」に個人差があるように、「摂取エネルギー」にも小さくない個人差があります。つまり、同じものを食べたとしても、ある人はエネルギーとして体内に取り込まれるけれども、別の人は吸収されずにエネルギーとならない、というわけです。

 これは、消化管でどれだけのエネルギーが吸収されるかによると思われます。大食いでテレビに出るようなフードファイター(competitive eater)の人たちは、体型がやせ型の人が多いようですが、おそらく食べても食べても消化管でエネルギーがあまり吸収されていないのではないかと思われます。そして、この点もおそらくは遺伝でほぼ決まってしまっています。つまり、いくら食べても太らない体質の人をうらやましいと感じたとしても、そのような体質になることは不可能であり、フードファイターは努力よりも持って生まれた素質(?)によるところが大きいのです。

 この場合も、食べた分の大半が吸収される人は太りやすいために自らを"損"と考えるかもしれませんが、生物学的には"得"なのです。少ない摂取量で効率よくエネルギーを蓄えることができるからです。

 何をどれだけ食べれば何キロカロリーの摂取で、どれだけの運動をすれば何キロカロリー消費、といった情報は巷にあふれていますが、こういった情報(数字)は標準的なものであって、個人差が大きいという事実は知っておくべきでしょう。

 では、もうひとつの原理原則にうつりましょう。「ダイエットの第2法則」は、「脂肪組織1gは7kcalのエネルギー」という事実です。これは個人差があるわけではなく、生化学的(熱力学的)に分かっていることです。

 しかし、これだけではわかりにくいので、1ヶ月に2kgの体重減少を目標にすることを仮定して話をすすめていきましょう。まず、1ヶ月に2kg(2,000g)ですから、これを30で割ると、1日あたりでは67gとなります。1g7kcalですから、67gだと469kcalとなります。469kcalといえば、だいたい軽めのラーメン1杯分に相当します。ということは、毎日ラーメン1杯分くらいの摂取量を減らせばそれだけで月に2kgやせることが可能となるわけです。(先に述べたように個人差はありますが)

 次回は、具体的にどのような食事をしてどのような運動をすべきなのか、さらに「ダイエットの2大法則」を踏まえた上で推薦できるダイエット方法についてお話いたします。

参考:
メディカル・エッセイ第55回(2007年8月)「「ダイエットに報奨金」の意味するもの」
医療ニュース
2009年10月26日「タイ産やせ薬で相次ぐ死」
2008年12月15日「やせ薬「ソロスリム」で体調不良」
2007年6月11日「危険な輸入健康食品」
2007年3月23日「ダイエット用食品から未承認医薬品検出」