医療ニュース

2012年11月5日(月) 喫煙で8~10年寿命が短く

 喫煙を続ければ心筋梗塞や脳梗塞などの脳血管障害や各種ガンにかかりやすくなる、というのは常識であり、当然寿命が短くなることも想像できますが、では、日本人がタバコを吸い続ければどれだけ寿命が短くなるのか、という問題を科学的に実証した研究はこれまであまりありませんでした。

 20歳までに喫煙を開始して禁煙しなかったとき、男性なら8年、女性なら10年の寿命が短縮する・・・

 これは公益財団法人放射線影響研究所のR.Sakata氏らの研究結果で、医学誌『British Medical Journal』2012年10月25日号(オンライン版)に論文が掲載されています(注1)

 調査の対象となったのは、1945年以前に生まれた広島・長崎の市民男性27,311人と、女性40,662人で、1963~1992年の間、郵送および診療所での問診で喫煙状況が調べられています。2008年までの死亡が分析されており、平均追跡年数は22.9年となっています。

 解析の結果、1920~45年に生まれ、20歳までに喫煙を開始してやめなかった場合、全死亡率は、男性で2.21倍、女性では2.61倍にも上っています。

 男性喫煙者の70歳での生存率は72%であり、男性非喫煙者の78歳の生存率が72%であり、これらから、8年間の寿命の差がある、とこの研究では述べられています。

 女性の場合、喫煙者の70歳での生存率が79%で、非喫煙者の生存率が79%になるのは80歳であり、10年の差がある、ということになります。

 気になるのは、今から禁煙しても遅いのでは?、ということですが、論文によりますと、35歳までに喫煙をやめていた場合、死亡率の比は1.02となり、リスクが消失しています。35~44歳でやめていた場合も1.22とリスクは大きく低減しています。

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 放射線影響研究所というのは、原爆放射線の健康への影響について調査する日米共同の研究機関です。公益法人として発足したのは1975年ですが、前身は米国学士院が1947年に設立した原爆傷害調査委員会です。ガンや死亡率、喫煙に関する正確なデータが豊富にありますから、そのデータから分析されたこの結果は注目に値するでしょう。

 この研究は単純に「死亡」のことが調べられています。おそらく「健康に生きているか」という観点からみれば、8~10年よりもさらに大きな差が開くことでしょう。

 私の印象では、ここ2~3年で一気に禁煙する人が増えているような感じがします。特に医師や看護師などは少し前まで喫煙率の高い職業と言われていましたが、私の周囲でいえば喫煙する医療者がほとんどいなくなりました。いきすぎた禁煙ブームに不快感を示したり、愛煙家の権利を守ろうとしたりする喫煙者の動きもありますが、今回の放射線影響研究所の研究結果をよく考えてあらためて禁煙を試みてはいかがでしょうか。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは、「Impact of smoking on mortality and life expectancy in Japanese smokers:
a prospective cohort study」で、下記のURLで全文を読むことができます。

http://www.bmj.com/content/345/bmj.e7093

参考:医療ニュース
2010年10月1日 「受動喫煙で毎年6,800人が死亡」
2008年12月15日 「女性の喫煙は14.5年も短命に」
2008年2月12日 「タバコで年間800万人が死亡」
2007年8月4日 「タバコで余命が3.5年短縮」