医療ニュース

2016年8月5日 フィリピンから帰国した日本人女性がデング熱で死亡

 2016年7月21日、日本人女性がフィリピンから帰国しデング熱の重症型「デング出血熱」で死亡したことを、7月22日、厚生労働省が公表しました。

 厚労省の発表によれば、この女性は新潟県在住の30代で、6月29日から7月15日までフィリピンに滞在していました。(フィリピンのどこに滞在していたかは報道からは不明) 滞在中から頭痛や発熱を自覚し、帰国直後の16日に新潟市内の医療機関を受診、直ちに入院となりましたが出血などの症状が進行しており5日後に死亡が確認されています。デング出血熱で日本人が日本で死亡した事例は2005年以来ということになります。

 今年は蚊が媒介する感染症としてはジカ熱(ジカウイルス)が最も注目されていますが、世界全体でみればデング熱の方がはるかに重要です。デング熱は世界中の熱帯または亜熱帯で幅広くみられ、厚労省検疫所(FORTH)の発表(注1)によれば、デング熱ウイルス感染者は年間3億9千万人、そのうち9,600万人が臨床症状を発現しているとされています。(9,600万人以外の人は感染したけれども無症状だった、という意味です)入院が必要な重症のデング熱患者(デング出血熱も含めて)は、年間50万人と推測されており、そのうち約2.5%が死亡しています。

 デング熱ウイルスは蚊に刺されなければ感染しないわけですから、蚊対策が何よりも重要です。ウイルスを媒介するネッタイシマカやヒトスジシマカは日中に活動しますし、街中にもいます。ですから、感染の可能性のある地域に渡航するときは、半袖や半ズボンなどを着用するならDEETなどを用いなければなりません。私がこれまで見聞きした例でいえば、ビーチやプールサイドで蚊に刺されて発症というケースが目立ちます。日焼け止めはきちんと使用しているのに、虫よけ対策がおざなりになっているのです。

 死亡した新潟県の女性がどこまで蚊対策をしていたのかは不明ですが、おそらくワクチン接種はしていなかったでしょう。皮肉なことに、この女性が蚊に刺されたフィリピンでは、今年(2016年)4月から、小学生に無料ワクチン接種がおこなわれています。

 CNNの報道(注2)によれば、デング熱の重症例10人中9人まではこのワクチンで助かるそうです。フィリピン国立医大(注3)によれば、ワクチンにより、これから5年で24%の感染を防げるそうです。フィリピンでは、デング熱の患者が急増しており、2014年には12万人だったのが2015年には20万人に増えています。

 もっとも、ワクチンで感染が完全に防げるわけではないことはワクチンの製造会社であるサノフィパスツール社も認めています。また、副作用を懸念しワクチンに反対する声はフィリピンの医療者からも出ているようです(注4)。

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 今のところ、このワクチンが日本で接種できる予定はありません。どうしても接種したいという人はフィリピン、メキシコ、ブラジルなど、このワクチンが認可されている国の医療機関で相談してもいいかもしれません。しかし、このワクチンは3回接種が基本で、2回目は半年後、3回目はさらに半年たってから打たねばなりません。それを考えると蚊対策を徹底する方が現実的と言えるでしょう。どのみち、チクングニアやジカウイルスも同時に予防しなければならないのですから。

注1:下記を参照ください。

http://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/2016/04181444.html

注2:CNNのこの報道は2016年4月4日におこなわれました。下記URLを参照ください。

http://cnnphilippines.com/news/2016/04/04/doh-starts-dengue-vaccination-program.html

注3:この日本語訳は自信がありません。原文は「University of the Philippines National Institutes of Health」です。

注4:フィリピンが無料接種を開始した時点はWHOはまだ見解をだしておらず慎重な立場でしたが、2016年7月に「流行地域ではワクチンを検討すべき」という声明(注5)を発表しています。

注5:このWHOの発表は下記URLを参照ください。

http://www.who.int/immunization/research/development/dengue_vaccines/en/

参考:
医療ニュース2016年1月8日「デング熱ワクチン、ついに実用化へ」
はやりの病気第126回(2014年2月)「デング熱は日本で流行するか」
トップページ→旅行医学・英文診断書など→〇海外で感染しやすい感染症について→
3) その他蚊対策など