医療ニュース

2019年5月30日 女性の「マイスリー」は危険でない?

 大切なことなのと"悪口"ではないためにあえて商品名を書きます。

 別のところにも書きましたが、以前ある患者さんから次の言葉を聞いて愕然としたことがあります。

「一番弱いと聞いたマイスリーをください。深夜便の飛行機に乗るんです・・・」

 このサイトで繰り返し伝えているように睡眠薬(の大半)は一般の人が思っているよりもはるかに危険です。過去には、マイスリーを飲んで意識がないままわが子を殺めた女性の話や、入院中のお婆さんをレイプした男性の話なども紹介しました。

 今回紹介するのは医学誌『Journal of Clinical Psychopharmacology』2019年5月6月号(オンライン版)に掲載された「ゾルピデム(マイスリーの一般名)と性~女性は本当にリスクが高いのか~」(Zolpidem and Gender Are Women Really At Risk?) というタイトルの論文で、マイスリーを「擁護」しています。

 この論文が作成されるきっかけは2013年にFDA(米国食品医薬品局)が公表したマイスリーの警告です。FDAは、女性は男性に比べて翌日にマイスリーが血中に残りやすいことを指摘し、2013年1月10日、投与量を男性の50%まで減量するよう警告書を発表しました。

 今回紹介する論文はそのFDAの見解に疑問を投げかけています。男性と同様の量を内服した場合、翌日の血中濃度が女性の方が高くなることは認めているのですが、路上走行試験では運転障害に男女差が確認されていないことを挙げ、その他の性差も臨床的に認められていないことを主張しています。

 さらに、女性への投与量を減らすことによって不眠の治療が不充分となり、それがかえって危険なのではないかと結論付けています。

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 日本と同様、マイスリーは米国でもよく処方される睡眠薬で、少し古いデータですが、2011年には約6千万錠が処方され、これは2006年から20%増加しています。

 重要なのは男女差を追求するのではなく、性に関係なくこのような睡眠薬を使わなくてもいい状態に持って行くことで、これこそが「真の治療」です。もちろん、将来的に止めなければならないのはマイスリーだけではありません。冒頭で紹介した患者さんが言うように、マイスリーよりも"強い"睡眠薬は多数あり、私の経験で言えば多くの人がその危険性をきちんと認識していません。よって、当院では「どうやって睡眠薬を減らしていくか」という観点で過去13年間治療をおこなっています。

参考:
はやりの病気第164回(2017年4月)「本当に危険なベンゾジアゼピン依存症」
はやりの病気第151回(2016年3月)「認知症のリスクになると言われる3種の薬」
メディカルエッセイ第165回(2016年10月)「セルフ・メディケーションのすすめ~ベンゾジアゼピン系をやめる~」
はやりの病気第124回(2013年12月)「睡眠薬の恐怖」