医療ニュース

2014年3月30日 禁煙は心の健康にも有効

 ここ数年で、禁煙をおこなう人が急増し、医療機関での禁煙治療も随分普及してきています。基本的にほとんどの医師は、"ほとんどすべての"患者さんに禁煙をすすめています。今私が、"すべての"でなく"ほとんどすべての"としたのは、禁煙を必ずしもすすめていないケースも医師によってはあるからです。

 それは精神疾患を有している患者さんの場合です。精神疾患がある人に対する禁煙治療については意見が分かれるのです。最近では、禁煙すべき、という意見が増えてきてはいますが、例えば大病院のなかには、一般病棟は全面禁煙だけれども精神科病棟のみは喫煙室があるようなところもありますし、精神科専門病院では全面禁煙にしているところの方が今でも少ないのではないかと思われます。この理由は「精神症状の緩和に喫煙が役立っている」という意見があり、また「禁煙治療をおこなうことで精神症状が悪化する可能性」を指摘する声があるからです。

 しかしながら、禁煙は、心疾患や悪性腫瘍のリスクを下げるだけでなく、どうやら精神症状をも改善してくれるようです。

 禁煙すると、喫煙を続けた場合に比べ、うつ症状や不安症状、ストレス症状が有意に軽減し、肯定的な感情や精神的なQOLが有意に向上する・・・。

 これは医学誌『British Medical Journal』2014年2月13日号(オンライン版)に掲載された研究結果です(注1)。

 この研究は、これまでに公表された禁煙と精神状況に関する合計26個の研究を総合的に解析(メタ解析)することによっておこなわれています。対象集団は、一般人口に加え、慢性の身体性疾患を有する人、精神疾患を有する人も含まれています。年齢の中央値は44歳で性別は男性48%です。平均喫煙本数は1日あたり20本で、ニコチン依存度は中等度とされています。

 その結果、禁煙をおこなったグループでうつ症状や不安症状が有意に改善し、肯定的な感情が芽生えやすくなり、精神的なQOLの向上につながったそうです。さらに、抑うつ症状や不安症状を有している人が禁煙すると、抗うつ薬を用いたときと同等かそれ以上の効果がある、と研究者らは述べています。

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 さて、では問題はどのように禁煙をしていくかですが、承認されている禁煙補助薬で成功率の高いチャンピックス(一般名はバレニクリン)を考えたいところです。ただし、精神症状を有している人に対する禁煙治療は上にも述べたように反対意見があるのも事実です。

 しかし最近は、精神症状を有する症例へのチャンピックスを用いての禁煙治療を推進するような研究発表が増えてきています。例えば、医学誌『Biological Psychiatry』2011年2月8日(オンライン版)(注2)では、チャンピックスを内服しても精神症状が悪化しないという結論が導かれていますし、医学誌『British Medical Journal』2013年10月11日号(オンライン版)(注3)にも、チャンピックス内服で自殺のリスクは増えないという研究結果が掲載されています。

 太融寺町谷口医院では、他院(精神科)で抗うつ薬などを処方されている患者さんが禁煙治療目的で受診されたときは必ずその精神科の主治医に、チャンピックスを用いての禁煙治療をおこなっていいかどうかの確認をとるようにしています。以前は「禁煙治療は望ましくない」と言われることもあったのですが、ここで紹介した研究の影響もあるのかどうかは分かりませんが、ここ1年間くらいは積極的に禁煙治療を推奨する精神科医が増えてきているような印象があります。

(谷口恭)


注1:この論文のタイトルは、「Change in mental health after smoking cessation: systematic review and meta-analysis」で、下記URLで全文を読むことができます。
http://www.bmj.com/content/348/bmj.g1151

注2:この論文のタイトルは、「A Double-Blind Randomized Placebo-Controlled Pilot Study of Neuropsychiatric Adverse Events in Abstinent Smokers Treated with Varenicline or Placebo」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://www.biologicalpsychiatryjournal.com/article/PIIS000632231001276X/abstract

注3:この論文のタイトルは、「Smoking cessation treatment and risk of depression, suicide, and self harm in the Clinical Practice Research Datalink: prospective cohort study」で、下記のURLで全文を読むことができます。
http://www.bmj.com/content/347/bmj.f5704



参考:
トップページ 禁煙外来
はやりの病気第66回 2009年2月号 「メンソールの幻想と私の禁煙」
はやりの病気第56回 2008年4月号 「ついに登場! 飲む禁煙薬」
はやりの病気第32回 2006年5月第2週号「そろそろ本格的な禁煙を!① 」
はやりの病気第33回 2006年6月第1週号「そろそろ本格的な禁煙を!② 」
はやりの病気第34回 2006年6月第2週号「そろそろ本格的な禁煙を!③(最終回)」