メディカルエッセイ

105 お茶とコーヒーとチョコレート 2011/10/20

健康のためにサプリメントを摂取する人が多い中、最近発表される研究結果はサプリメントの効果を疑問視するものが目立ちます。効果がないだけでなく、なかにはビタミン剤で発ガンのリスクが上昇するといったものもあり、摂取することが逆効果になるとする研究も増えてきています。

 そんななか、サプリメントに頼るのではなく、従来の飲食品で健康を維持しようとするムーブメントがここ数年間で広がっているように思われます。今回は、代表的な飲食品として、お茶、コーヒー、チョコレートの最近の研究結果を報告したいと思います。

 まずはお茶(日本茶)に関するものです。今回紹介するのは日本での研究で、国立がん研究センターが実施したものです。その結果は意外にも、「閉経前の女性は、緑茶をよく飲む人ほど甲状腺がんになりやすい・・・」というものです(注1)。一方、閉経後の女性では、その逆に「緑茶をよく飲む人ほど、甲状腺がんになりにくい」という結果がでています。

 この研究では、岩手、秋田、茨城、新潟、長野、大阪、高知、長崎、沖縄各府県の40~69歳の男女約10万人が対象となり、1990年~2007年まで追跡調査が実施されています。緑茶の摂取量によって対象者を4つのグループに分類し、甲状腺がんとの関連が調べられています。追跡期間中に男性26人、女性133人が甲状腺がんを発症しています。

 女性について閉経前後で分析すると、閉経前の女性では、緑茶の摂取が「1日1杯未満」のグループに比べ、「1日3~4杯」のグループは1.64倍、「1日5杯以上」のグループは1.66倍、それぞれ甲状腺がんのリスクが高かったそうです。一方、閉経後では、「1日3~4杯」緑茶を飲むグループが「1日1杯未満」に対して0.69倍、「1日5杯以上」では0.47倍とリスクが低下しています。興味深いことに、「1日1~2杯」のグループは、閉経前後のいずれでも、「1日1杯未満」よりリスクが低下しています。

 なぜこのような結果となったのか、現時点では断定できる理由はありませんが、研究者らは、緑茶に含まれるカテキンが女性ホルモンのエストロゲンに似た働きがあることが関係しているのではないかとみているようです。

 尚、この研究では、コーヒー摂取と甲状腺がん発生との関係も調べられていますが、男女ともに関連は認められなかったようです。

 お茶の次はコーヒーについての研究を紹介したいと思いますが、おしなべて言えば、ここ数年間のコーヒーに関する研究はほとんどが肯定的なものです。様々なガンの予防になるとするものが多いですし、高血圧や糖尿病にもいいとか、リラックス効果があるからなのか精神状態にもいいとされています。

 今回は最近発表された「女性のうつ病とコーヒーの関係」についてご紹介したいと思います。この研究は、米国ハーバード大学公衆衛生学教室によっておこなわれたもので、対象者はアメリカ在住の女性看護師約5万人です。「Nurses' Health Study」と命名された大規模調査のデータを解析することによって研究がおこなわれています(注2)。
 
 この研究では、1996年に抑うつ症状がなかった50,739人(平均年齢63歳)の女性看護師が対象となり、2006年まで追跡調査がおこなわれています。10年間にわたる追跡期間中に2,607人がうつ病を発症しています。コーヒーの摂取量を週1杯以下、週2~6杯、1日1杯、1日2~3杯、1日4杯以上に分けてうつ病発症との関係が解析されています。

 その結果、「1日2杯以上のコーヒーを飲む女性は、うつ病になりにくく、4杯以上でさらにリスクが低下する」ということが判ったそうです。どれくらいリスクが低下するかというと、2~3杯で相対リスクが0.85に、4杯以上で0.80とされていますから、コーヒーを1日4杯飲めば、「うつに2割なりにくい」という言い方ができるかもしれません。(「2割なりにくい」という表現は意味不明ですが、コーヒーをあまり飲まずにうつになってしまった10人がもしも1日4杯以上のコーヒーを飲んでいたら、うち2人はうつにならなかった、ということになります)

 尚、カフェイン抜きのコーヒーでは、うつとの関連性は認められなかったそうです。

 なぜコーヒーがうつの予防になるのか、ということについて、研究者は、「カフェインは短時間の間、気分に良い影響を及ぼし、活力が増し、目がさえるという自覚的な感覚をもたらす。長期間にわたるコーヒー消費がうつ病発現のリスク低下につながるのは理解できること」としています。

 しかし、この研究をよく読むとコーヒー摂取に少し気になることがあります。それは、コーヒー摂取頻度が高いグループほど、肥満や高血圧、糖尿病など生活習慣病が少なかったという結果がでており、これはもちろんいいことなのですが、その一方で、コーヒーをよく飲む人ほど、喫煙率が高く、アルコール摂取が多く、さらに教会や地域グループへの参加が少なかったそうなのです。うつ病の予防になるかもしれない、というのは、コーヒー好きな人には嬉しい研究結果ですが、もしもあなたがコーヒーも好きだけど、アルコールと喫煙もたしなみ、地域社会との交流に乏しいとしたら、要注意かもしれません。

 最後にチョコレートに関する最近の研究結果をご紹介したいと思います。チョコレートは、糖分と脂肪が豊富に含まれ高カロリーであることから「嫌われ者」にされることが多いようですが、実はポリフェノールが豊富に含まれ、抗酸化作用や降圧作用にすぐれていることは随分前から指摘されていました。

 英国ケンブリッジ大学の研究者が、これまでに発表されているチョコレートと心血管疾患などとの関連性について調査された合計7つの研究を対象にメタ解析(複数の研究結果を総合的に分析しなおすこと)をおこない、医学誌『British Medical Journal』2011年8月29日号(オンライン版)で発表しています(注3)。

 研究の対象となったのは、ドイツ、オランダ、スウェーデン、日本、米国などの合計114,009人で、「チョコレート」には、板チョコ、チョコレートドリンク、チョコレートビスケット、チョコレートデザートなどを含みます。

 その結果、チョコレートを週1回以上摂取する人は、それ以下の人に比べ、心疾患リスクが37%、糖尿病リスクが31%、脳卒中リスクが29%低下していることが分かったそうです。糖尿病に関しては日本人のみを対象としたデータもあり、男性で35%、女性で27%リスクが低下しています。

 この結果はチョコレート好きには嬉しいものでしょう。しかし、チョコレートが身体にいい理由は原料のカカオにフラボノイド系ポリフェノールが含まれているからです。ですから、健康にいいから、という理由で、これまで以上にチョコレートを食べる必要はなく、野菜や果物からポリフェノールを摂取した方がいいのは間違いありません。とはいえ、これからはチョコレートに少しくらい甘くなってもいいのではないでしょうか。

 私なら、美味しくもなんともないサプリメントに頼るのではなく、カフェインがたっぷり入った美味しいホットコーヒーとチョコレートでリラックスする方を選択します。


注1 この研究結果は国立がん研究センターのサイトで詳細が紹介されています。詳しくは下記URLを参照ください。

http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/2829.html

注2 この論文のタイトルは、「Coffee, Caffeine, and Risk of Depression Among
Women」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://archinte.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1105943

注3 この論文のタイトルは「Chocolate consumption and cardiometabolic disorders:
systematic review and meta-analysis」で、下記のURLで全文を読むことができます。

http://www.bmj.com/content/343/bmj.d4488?sid=889db0ba-816a-401e-bf25-9b86ebba6b7f

参考:
はやりの病気第22回「癌・糖尿病・高血圧の予防にコーヒーを!」
はやりの病気第30回「コーヒー摂取で心筋梗塞!」

医療ニュース
2008年9月13日「子宮体癌の予防にコーヒーを」
2008年6月30日「コーヒーはいいことばかり」
2007年10月16日「お酒の代わりにコーヒーを、すい臓ガンを予防」
2007年9月3日「コーヒーは肝臓癌のリスクを下げる」
2007年8月4日「大腸がんの予防、男性ビタミンB6、女性はコーヒー」
2008年2月25日「禁煙すれば緑茶が胃癌の予防に」
2007年5月14日「緑茶が脳梗塞を予防する可能性」
2010年11月4日「緑茶に乳ガンの予防効果なし」

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