薬について

薬について


薬はいかなるときも「いかに減らしていくか」を考えねばなりません。それは市販の薬も含めてです。当院ではこれまで多くの患者さんに「どのように薬を減らし、場合によっては薬の依存を断ち切るか」という治療をおこなってきました。そして、これからも同じ方針で診療していきます。

参考:Choosing Wisely Top 10

〇自分の判断で中止していいのか、食前か食後か、いつでもいいのか


薬にはよほどの副作用が出ない限りは指示どおりに飲まなければいけないものと、自分の判断で中止したり、あるいは増やしたり減らしたりしてもかまわないものがあります。例えば、生活習慣病の薬や抗菌薬は自分の判断でやめてはいけませんが、これらを理屈で考えるのは容易ではありません。

そこで、当院では院内処方せん(薬と同時にお渡しするA5サイズの用紙)にそれらを記載しています。例を挙げて説明します。



<例>
① アムロジピンOD錠 1錠
  【用法】1日1回 56日分

② メトホルミン錠250mg 2錠
  【用法】1日2回朝夕食後

③ エピナスチン塩酸塩錠20mg 1錠
  【用法】1日1回、増減可 14日分

④ アセトアミノフェン錠200mg 3錠
  【用法】頭痛時 1日3回まで可 10回分


①については1日1回同じ時間に内服します。(朝とか食後とかいった記載がなければ、同じ時間であれば食前でも食後でもかまいません)


②については1日2回(1回1錠ずつ)内服します。「2錠」というのは1日の合計の錠数になります。「朝夕」の記載がありますから朝と夕方(夜)に1錠ずつ飲みます。また「食後」とありますから食後に飲みます。「食前」「食後」の記載がない場合は、どちらでもかまいません。


③については1日1回同じ時間に飲みます。内服時刻はいつでもかまいません。食前でも食後でも食間でも寝る前でもいつでもかまいません。この場合は「増減可」とありますので、あと1錠は増やしてもかまいませんし、自分の判断で中止してもかまいません。


④については「1日〇回」ではなく「頭痛時」とされています。このように必要時に内服する方法を「頓服(とんぷく)」または「頓用(とんよう)」と呼びます。この場合は3錠をまとめて飲みます。記載にあるように1日3回まで(合計1日9錠まで)飲んでもかまいません。


他のよくある頓服には、「吐き気時」「発熱時」「むくみ時」などがあります。


●手術を受けるときの注意
手術前には、服薬を中止すべき薬剤がいくつかあります。どの程度の期間中止すべきかは、薬によって異なり、また、手術時間、手術内容、その患者さんの病歴やコンディションなどによって変わってきます。執刀医の指示に従わなければなりません。東京慈恵会医科大学附属柏病院が公表している表は参考になるかもしれません。

〇薬局の薬との飲み合わせについて


患者さんからしばしば受ける質問に「薬局の薬を飲んでいいですか」というものがあります。薬の飲み合わせはたいへんむつかしく一般の方が自身で判断するのは危険です。こういうケースでは必ず薬局の薬剤師に聞いてください。

最近インターネットを通して薬を購入する人が増えています。こういうサービスでは薬の飲み合わせについて相談できませんから、何らかの薬を飲んでいる人は主治医に相談する必要があります。当院の患者さんであれば、診察時に聞いていただくか、メールで相談されることをすすめています。

〇副作用が出た(かもしれない)とき


薬には副作用がつきものですが、軽症で副作用を我慢して飲み続けていい場合もあれば直ちに中止しなければならないこともあります。次の症状が出た(かもしれない)ときは直ちに中止して連絡してください。

・薬疹(薬を飲んだ後の湿疹・じんましん)
・呼吸困難、喘息様症状
・倦怠感、むくみ
・尿がでない
・発熱
・筋肉痛、関節痛など

〇よくある副作用


副作用はかなり多岐に渡りますが、ここでは当院で比較的多いものをまとめてみます。

胃痛:抗菌薬、抗真菌薬、鎮痛薬、鉄剤などでおこります。

下痢・腹痛:抗菌薬で高頻度に起こります。あらかじめ整腸剤の処方が必要になることもあります。

カンジダ症:最も多いのが抗菌薬処方時の女性の膣カンジダ症で、頻繁に起こす人はあらかじめ膣錠処方が必要になることもあります。ステロイド吸入薬を使用している人はうがいが不充分であれば口腔カンジダ症をおこすことがあります。

肝機能障害:急激に起こった場合は倦怠感が出現しますが、ゆっくりと起こった場合は気付かないこともあります。長期で服用する場合は定期的な血液検査が必要になることもあります。

腎機能障害:肝機能障害と同様ゆっくりと起こった場合は気付きません。特に鎮痛剤を長期で使用している人は注意が必要です。

その薬をもっと詳しく知りたいとき


「くすりのしおり」というウェブサイトがわかりやすいと思われます。当院で処方している薬もすべてこのサイトで調べることができます。当院の院内処方箋(「本日のお薬の説明」)に記載されている薬品名を「キーワードをご入力ください」と書かれた枠に入力すれば詳しい情報が得られます。

くすりのしおり
http://www.rad-ar.or.jp/siori/index.html


〇塗り薬(外用薬)の注意点


軟膏・クリーム・ローションの使い分け
目的によってこれら外用薬の形状を使い分けなければなりません。トラブルでよくあるのが、カンジダのクリームを外陰部に塗って余計に痒み・痛みがました、というものです。外陰部を含めて粘膜に塗るときには軟膏を使う必要があります。


ステロイド外用薬
自分の判断で外用すべきではありません。薬局で買えるステロイドを自分の判断で塗り続け取り返しのつかない副作用が生じた人もいます。ステロイドは、どの程度の強さのものを、どの程度の期間、どの部位に、1日何回くらい、どのような塗り方をするのか、ということについて充分に理解してもらう必要があります。


ディフェリン(アダパレン)、ベピオゲル(過酸化ベンゾイル、BPO)
これら2つの登場でニキビは随分と治療がおこないやすくなりましたが、これらを使用するにあたってはどのような副作用が生じるかを理解しておく必要があります。


抗真菌薬
これは副作用を避けるという理由ではなく、再発を避けるという目的で、長期で外用すべきです。特に水虫は治ったと思ってもそれからしばらくの間は塗り続ける必要があります。

〇薬疹について


薬疹は疑えば直ちに中止しなければなりません。なかには生命にかかわるような重篤なものもあります。ここでは誤解の多いものをあげておきます。

ピリン疹について
問診票に「ピリン疹」と書いている人は少なくありませんが、医療機関で用いるピリン系の薬剤は内服では「SG顆粒」、注射では「メチロン」くらいです。しかし、現在これらが使われることはほとんどありません。薬局で買える薬では「セデスハイ」などいくつかありますから、ピリン疹がある人は注意すべきですが、そもそもピリン系を初めから使用すべき理由は通常ありません。鎮痛薬については依存性を考慮しなければなりませんから、何らかの痛みで悩んでいる人は薬局よりも医療機関に相談すべきでしょう。


薬を飲み終えてから症状がでる薬疹について
最近増えているのがペニシリン系の薬疹で、これはおそらくヘリコバクター・ピロリ菌の除菌で用いられる機会が増えているからでしょう。商品名では「アモキシシリン」というものがよく用いられます。内服終了してから1週間くらい経過してから現れることもあります。「飲み終わってから出たから薬疹とは違います」と言う人がいますが、こういうタイプの薬疹があることは知っておくべきでしょう。

もっと時間がかかってから出るタイプの薬疹もあります。DIHS(Drug-induced hypersensitivity syndrome)(薬剤性過敏症症候群)と呼ばれるタイプのもので、内服を終了してから数週間、ときには数ヶ月がたってから出現することもあります。この薬疹は重症化しますから疑えば通常は入院になります。

◆牛乳や果物ジュースとの飲み合わせ


薬は必ず水や白湯で飲まなければならないという意見があり、それは間違いではありませんが、実際には多くの薬はどのようなものと飲もうがあまり影響はありません。ただし、下記のものは注意をした方がいい場合もあります。とはいえ、過敏になりすぎるのも問題です。例えば、「ミノマイシンを飲んでいる期間は牛乳が飲めないんですか?」という質問がときどきありますが、そういうわけではありません。詳しくは受診時に相談されるかメールでお問い合わせください。

〇牛乳と同時に飲むと効果が減弱する可能性がある薬

テトラサイクリン系抗菌薬:ミノマイシン、ビブラマイシンなど
ニューキノロン系抗菌薬:シタフロキサシン、レボフロキサシンなど
セフェム系抗菌薬:セファクロル、セファレキシンなど
ビスホスホネート(骨粗しょう症の薬):ベネット、ビスフォナールなど

対策:薬を内服した後、2時間程度牛乳摂取を控える


〇牛乳と同時に飲むと効果が増強する可能性がある薬

強心薬:ジゴキシン、ジギトキシンなど
ドラール(睡眠薬):脂に溶けやすいため牛乳のみならず睡眠前の食事もNG

対策:薬を内服した後、2時間程度牛乳摂取を控える


〇牛乳と同時に飲むと高カルシウム血症を起こす可能性がある薬

ビタミンD:ワンアルファ、ロカルトロールなど
酸化マグネシウム
炭酸カルシウム

対策:牛乳を大量に飲むことを避ける


〇果物ジュースと同時に飲むと効果が減弱する可能性がある薬

フェキソフェナジン(抗ヒスタミン薬)
マクロライド系抗菌薬:クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど
ペニシリン系抗菌薬:サワシリン、オーグメンチンなど

対策:薬を内服した後、2時間程度ジュース摂取を控える

◆依存性のある薬について


日頃患者さんをみていて薬で最も気をつけなければならないのは「副作用」よりも「依存」です。薬の依存症というのは難治性となることが多く、ニコチン依存症のように簡単には治りません。(ニコチン依存症も難渋することがありますが薬の依存症はその比ではありません)

抗不安薬
「安定剤」と呼ばれることが多いもので、正確には「ベンゾジアゼピン系」、または「マイナー・トランキライザー」と呼ばれます。最も問題となるのは商品名でいえば「デパス」(エチゾラム)だと思われます。通称「デパス中毒」の人は少なくなく、依存症から抜け出すのにかなりの努力を要します。

睡眠薬
やはり「ベンゾジアゼピン系」「マイナー・トランキライザー」と呼ばれるものに依存性があります。睡眠薬については依存性だけではありません。中止すると内服開始前よりも不眠が強くなることもあります。(これを反跳性不眠と呼びます) ですから睡眠薬というのは安易に使用しない方がいいのです。ただし、最近は依存性のない睡眠薬も登場していますから、どうしても必要な場合はそういったものをまずは試すのがいいでしょう。

鎮痛薬
特に頭痛に使っている人に多く、最も多いのがイブプロフェン配合の薬局で買える薬です。また、医療機関で処方されるもので多いのがロキソプロフェンナトリウム(先発品は「ロキソニン」です)。通称「ロキ中」になってしまっている人は少なくありません。

麻薬
当院では扱っていませんが、医療用の麻薬にももちろん依存性はあります。

◆危険な個人輸入


日本国内で処方されたものを他人に売ったりゆずったりするのは違法ですし、処方薬を他人からもらったり購入することも禁止されています。しかし、インターネットなどを通して海外から個人使用目的で購入するのは(薬剤にもよりますが)違法ではありません。しかし、これらには偽物が多く勧めることはできません。そのなかでも特に注意をすべき薬剤をあげておきます。

絶対にやってはいけない個人輸入


イソトレチノイン:ニキビの治療で海外から購入する人がいますがこれは大変危険で厚労省も注意勧告をしています。

マジンドール:いわゆる「やせ薬」です。この被害は非常に多く重篤になることもあります。やせ薬はこれ以外のものも安易に手を出してはいけません。

ステロイド内服:ステロイドの内服は使用方法が非常にむつかしいものです。個人の判断で内服するのはあまりにも危険です。

勧めない個人輸入


低用量ピル:個人輸入のピルを使って避妊に失敗したという人がときどきいます。

ミノキシジル(内服):AGAの治療目的で個人輸入している人がいますが、これは危険です。外用薬ですら死亡例の報告がある薬剤です。日本では「リアップ」として薬局で買える外用薬がありますからそちらを使用すべきです。

抗菌薬:抗菌薬の使用は簡単ではありません。どのような抗菌薬をどの程度の日数内服すべきかというのは、重症度やその人がどのような疾患をもともと持っているか、体重などによっても異なります。抗菌薬が必要かもしれない症状があるときはまずかかりつけ医に相談しましょう。

◆サプリメント・健康食品について


サプリメントや健康食品については、大規模調査で有益性が認められているものはほとんどありません。「おすすめのサプリメントを紹介してください」と言われることがよくありますが、「〇〇を飲んでいると調子がいいんです」という人に中止するようなことは言わないものの、当院でサプリメントを勧めることはありません。一方、サプリメントや健康食品が原因で頭痛や肝機能・腎機能障害を生じたという症例はしばしば経験します。