HIV以外の性感染症について

注射針の使いまわし、医療従事者の針刺し事故、危険な環境でのタトゥーなどでHIV感染が心配な方は、HIV以外の検査では、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、梅毒、HTLV-1くらいの検査をおこなえば充分だと思われますが、性行為によるHIV感染が心配な方は、他のすべての性感染症について考えるべきだと思われます。

クラミジア

検査方法や費用については性感染症検査の費用」を参照ください。

参考:GINAコラム「クラミジアは抗体でなく抗原検査を」

●淋病

男性であれば感染して1~3日程度で尿道に痛みが生じたり、膿(うみ)が出たりしますが、最近は自覚症状の乏しい淋病も少なくありません。

女性の場合は大半が自覚症状がありませんが、進行すると腹膜炎を起こすこともありこうなればかなり危険な状態となります。

検査は、感染初期であっても顕微鏡の検査でその場で分かります。

多くの場合は、飲み薬の抗生物質だけで治癒しますが、最近は飲み薬が効きにくい淋病も増えてきており、その場合は注射や点滴をおこないます。

参考:GINAコラム「淋病の治療が変わります」



●梅毒

梅毒の発生は以前に比べると減ってきていますが、ゲイの間では感染率が低くありません。また、女性の間でもなくなったわけではありません。

梅毒はとことん進行すると脳を侵す感染症ですが、ここまで進むまでに治療が開始されるのが普通です。

梅毒を疑ってクリニックを受診する患者さんで最も多い訴えが、「皮膚に湿疹やできものができた」というものです。梅毒は、ありとあらゆる湿疹をきたしますから、気になる湿疹が出て、危険な性行為の可能性のある人は梅毒を疑うべきでしょう。

梅毒の検査は、RPRとTPHAという2種類の検査をおこなって判定します。梅毒を疑う症状が出現していなければ自費診療(2,620円)となります。

最初の検査で陽性と出た場合は、感染の度合いを調べるために精密検査をおこないます。この検査は、全例で保険が使えます。

治療は、抗生物質の内服を1~2ヶ月続けることになります。HIVやB型肝炎ウイルスと異なり、比較的容易に完治する病気ですから、いろいろと思い悩む前に検査を受けましょう。

参考:GINAコラム「増え続ける梅毒」



●性器ヘルペス

ペニスや外陰部、肛門周囲に痛みの伴う小さな水泡(みずぶくれ)ができ、進行するとびらん(ただれ)ができます。症状に応じて、塗り薬、飲み薬、点滴などを使い分けます。

性器ヘルペスがやっかいな点は2つあります。1つは、コンドームをしていても感染することです。もうひとつは、いったん治っても再発するということです。

海外では以前から認められていた「抗ヘルペス薬少量長期投与療法」が、2006年9月にようやく日本でも保険適用となりました。これにより、頻繁に繰り返す再発に悩んでいた患者さんの多くは苦しみから解放されています。気になる方はお気軽にお問い合わせください。

参考:GINAコラム「性器ヘルペスに悩まないで!」



●B型肝炎

肝炎ワクチンの接種をしようのページをご覧ください。

参考:
はやりの病気第8回 B型肝炎
はやりの病気第43回 B型肝炎にはワクチンを
GINAコラム「本当に怖いB型肝炎」



A型肝炎

肝炎ワクチンの接種をしようのページをご覧ください。


参考:GINAコラム「危険なアナルセックス~A型肝炎編~」


●C型肝炎

以前は、C型肝炎ウイルスは性感染しないのではないかと言われていました。しかし、最近は性感染したとしか考えられない症例が増加しており、B型肝炎ウイルスと同様に、C型肝炎ウイルスも性感染するのではないかと考える医師が増えてきています。

A、B型肝炎と異なり、C型肝炎ウイルスには効果的なワクチンがありません。また、B型肝炎やHIVのように感染したかもしれないときにすぐに服薬や注射をすれば効果があると考えられているような薬剤も現時点では存在しません。

C型肝炎は急性化することはあまりなく、急性化したとしても症状は軽度です。しかし、感染すると70%程度は慢性化すると言われており、慢性C型肝炎の治療が必要となります。

検査は血液検査で簡単に分かります。

治療については、以前はなかなか有効な薬剤がなかったのですが、最近は効果的なインターフェロンが登場し、週に一度の注射で効果が期待できるようになりました。ただし、この薬には様々な副作用がありますし、併用できない薬もたくさんありますから、インターフェロンを始めるには専門医の指導が必要です。(現在、太融寺町谷口医院ではインターフェロンの処方をしておりません。必要な場合、専門医を紹介しています)

参考:GINAコラムC型肝炎の検査を受けましょう



●子宮頚ガン

ガンをきたす性感染症は6つあります。B型肝炎ウイルス(肝臓ガン)、C型肝炎ウイルス(肝臓ガン)、HIV(リンパ腫や肉腫)、HTLV-1(成人性T細胞白血病)、EBウイルス(バーキットリンパ腫や上咽頭癌)、そしてもうひとつが子宮頚ガンをもたらすヒト・パピローマ・ウイルス(HPV)です。HPVは多くの病気の病原体であり、例えば指などにできるイボもそうです。また、後に述べる尖圭コンジローマもHPVによるものです。

子宮頚ガンをきたすHPVに感染してもすぐにはガンができるわけではありません。HPVが子宮頸部の細胞に侵入し、ゆっくりと細胞をガン化させていきます。

したがって、HPVに感染したとしても、発見が早ければアヤシイ部分の細胞をやっつければ必ずしもガンになるわけではありません。また、いったん一部の細胞がガン細胞になったとしても発見が早ければ子宮すべてを取る必要はありません。この場合、性行為も妊娠も充分におこなうことができます。

ですから、子宮を取らなくていいようにするには、定期的な検査をおこなうことが必要です。検査は子宮頸部を綿棒でこすって一部の細胞を取り、それを顕微鏡で見て異常な細胞がないかどうかを確認します。組織を切り取るわけではありませんから痛みもほとんどありません。

どのくらいの頻度で検診をおこなうかは、その人の性的な環境にもよりますし、以前の検査でどのような結果だったかにもよりますから、まずは一度検査を受けて、医師の指示に従うのがいいでしょう。一般的には20歳を超えれば年に一度程度は受けるべきでしょう。また、この検査は自治体によっては行政から補助金が出ますから、保健所などに問い合わせてみればいいと思われます。

子宮頚ガンの治療法は原則として手術です。飲み薬や注射薬で子宮頚ガンを治療することはできません。ただ、放射線をあてる治療法やレーザーで切り取る治療法もありますから、手術が必要な状態になれば、産婦人科専門医に納得がいくまで話を聞くべきでしょう。

さて、このような少々やっかいな子宮頸ガンをきたすHPVですが、たいへん優れたワクチンが開発され、2009年12月にはついに日本でも発売となりました。ただ、ワクチンをうてば絶対に子宮頚ガンにならないかというとそういうわけではありません。

詳しくは下記を参照ください。

参考:GINAコラム「子宮頚ガンとHPVワクチン


●尖圭コンジローマ

尖圭コンジローマもHPVによる感染症です。(ただし子宮頚ガンをきたすHPVとはタイプが異なります) 子宮頚ガンとは異なり、尖圭コンジローマはほとんど癌化することがありません。

症状はイボのようなものが、ペニスや外陰部、腟壁内、肛門周囲、尿道などにできます。痛みも痒みもほとんどありませんが、大量にできるとイヤな臭いが出てくることがあります。

イボが出ていなければ感染していないと考えて差し支えありませんから、尖圭コンジローマは検査をする必要がありません。もしも、気になるイボが性器または性器周辺にあれば、クリニックを受診すればいいというわけです。通常、クリニックでの検査はおこないません。医師であれば、それが尖圭コンジローマであるかどうかは見ればわかるからです。
尖圭コンジローマのやっかいな点のひとつは、ヘルペスなどと同様、コンドームをしていても感染するということです。ペニスの根元や外陰部はコンドームで覆われないことが原因です。

2007年末に認可がおりたイミキモド(Imiquimod、商品名はベセルナクリーム)の登場によって治療法が大きく変わりました。(詳細は、尖圭コンジローマ -新薬登場で短期治癒が可能に-

尿道や腟壁といった粘膜にできた尖圭コンジローマは治療に難渋することがあります。しかし、粘膜に尖圭コンジローマができた患者さんによく話を聞くと、最初はペニスや外陰部など他の部分にできていて、それを放置しておいたところ、粘膜の部位にもできた、と言う方がおられます。ということは、最初に気付いた点でクリニックを受診していれば治療に難渋することもなかった可能性があります。

他の性感染症と同様、気になることがあれば早めの受診が得策だというわけです。

尚、2011年9月から日本でも使用できるようになったガーダシルというHPVのワクチンは子宮頚ガンに対してだけではなく、尖圭コンジローマの予防もできるため接種する人が増えてきています。詳しくは下記コラム「新しいHPVワクチンと尖圭コンジローマ」を参照ください。

参考:
はやりの病気第97回(2011年9月)「新しいHPVワクチンと尖圭コンジローマ」
GINAコラム「悩ましき尖圭コンジローマ」


毎日新聞「医療プレミア」 
 あなたにも起こるかも…尖圭コンジローマがもたらす苦悩
 性感染症・尖圭コンジローマ 心身に及ぶ治療の難しさ
 性器のイボ、尖圭コンジローマの治療法は


●腟カンジダ症(カンジダ性腟炎)

カンジダは真菌で、分かりやすく言えばカビの一種です。腟内に感染しかゆみをもたらします。白っぽいオリモノが増えることもあります。この白っぽさは、酒かす様、ヨーグルト様などと表現されます。

診断は通常顕微鏡ですぐに分かりますが、顕微鏡で分かりにくければ培養検査をおこなうこともあります。この場合1日程度で結果が分かります。

治療は、抗真菌薬の腟錠を使います。ひどければ内服薬を用いることもありますが、通常は腟錠のみで充分です。

腟カンジダ症が他の性感染症と異なる点は、性交渉がなくても感染しうる、ということです。これは、カンジダは腸管の中に棲息していることがあるからで、肛門から会陰部を通って腟の中までやってくるというわけです。特に、抗生物質を内服しているときには腸管内の細菌が死滅し、代わりに真菌であるカンジダが増殖するので、腟カンジダ症が起こりやすくなります。ちょうど、赤ちゃんに抗生物質を飲ませると、肛門周囲にカンジダ性皮膚炎が起こりやすくなるのと同じ理屈です。

あなたが男性で、もしもあなたの彼女が腟カンジダ症になったとしても、すぐに浮気を疑わないように注意をしましょう。

参考:GINAコラム「カンジダをきたす3つの要因」



●カンジダ性亀頭炎

腟カンジダ症が性感染でない場合があるのに対して、カンジダ性亀頭炎は性感染であることが多いと言えます。しかしながら、小学生の男の子でもカンジダ性亀頭炎を起こすことがありますから、必ずしも性感染というわけではありません。特に、包茎の人は性交渉がなくてもカンジダ性亀頭炎をおこしやすいと言えるでしょう。

検査は顕微鏡でおこないますが、この場合は検査をしなくても視診だけで診断がつくこともあります。

抗真菌薬の外用薬で治癒しますが、炎症の強いときは一時的にステロイド外用薬を処方することもあります。



●腟トリコモナス

やや黄色身を帯びたイヤな臭いのきついおりものが出ていれば腟トリコモナスを疑う必要があります。感染が軽度であれば自覚症状がないこともありますが、顕微鏡の検査ですぐに分かります。

治療は、通常は飲み薬で治します。(妊婦の場合は腟錠を使うこともあります)

薬の服用期間は普通は10日間で、この間は飲酒を控えなければなりません。

また、腟トリコモナスは、性感染以外にも、銭湯や温泉でも感染することがあると言われています。

参考:GINAコラム「臭いが気になればトリコモナスかも・・・」



●毛じらみ

陰毛が生えている部分のかゆみがあれば、じっくりと観察してみましょう。白いものがあれば毛じらみの可能性があります。クリニックで顕微鏡の検査をすればすぐに診断がつきます。

治療は、虫を殺す粉薬やシャンプーを使います。

参考:GINAコラム「毛じらみは自分でみつけましょう!」



●疥癬(かいせん)

通常、先進国にはあまり発症報告がないのですが、日本は先進国のなかでは例外的に疥癬が多いようです。ヒゼンダニというダニの一種がおこす感染症で、性感染症以外には老人ホームなどで大量発生することがあります。こうなれば医療従事者も感染しているのが普通です。

ヒゼンダニは主に夜間に活動をします。皮膚の中に卵を産み付け、孵化するのも夜間だと言われています。したがって疥癬のかゆみは夜間に増強するのがひとつの特徴です。

診断は、顕微鏡ですぐにつきますが、感染初期には分からないことがありますので、疥癬の感染を疑えば、何度も顕微鏡の検査が必要になることもあります。

これまで治療薬にいいものがなかったのですが、2006年の8月から非常によく効く飲み薬の保険適用が認められるようになりましたから、現在ではそれほど治療に苦労することはありません。



●鼡径リンパ肉芽腫

クラミジアの一種がおこす感染症で、またの付け根のリンパ節が腫れるのが特徴です。ただし、最近の日本ではあまり報告がありません。一方、タイや中国では比較的よくある感染症ですから、タイや中国で危険な性行為をした後にまたの付け根が腫れだしたという人は疑うべきかもしれません。ただ、またの付け根のリンパ節が腫れる病気は他にもたくさんありますから、この病気だと決め付けないでまずはお気軽にご相談を。



●HTLV-1感染症

なぜか一般の方にはあまり知られていない重要な感染症がHTLV-1です。このウイルスは成人型T細胞白血病という白血病の原因ウイルスです。そしてこの白血病には有効な治療法がありません。また、白血病がおこらなかったとしてもこのウイルスを持っていれば、HAM(HTLV-1関連脊髄症)という名前の手足が動かなくなる病気になることもあります。

このように非常に重篤な病気をもたらすウイルスなのですが、世間の関心はあまり高くありません。その理由に、ウイルスを持っていても必ずしも発症するわけではないことと、潜伏期間が数十年と、感染しても長期間発病しないことが考えられます。

しかしながら、日本にはこのウイルスを持っている人(キャリア)が、なんと120万人もいると言われています。なぜか地域に偏りがあり、西日本の山間部に多いという特徴があります。

このウイルスは、血液と母乳、そして精液に含まれていますが、腟分泌液には含まれていません。ということは、血液感染と母子感染以外には、男性から女性の性感染があるということになります。

血液検査で感染しているかどうかは簡単に分かりますが、有効な治療法は現在のところありません。ワクチンもありません。

参考:
はやりの病気第47回 誤解だらけのHTLV-1感染症(前編)
はやりの病気第48回 誤解だらけのHTLV-1感染症(後編)
厚生労働省 HTLV-1感染予防のQ&A

GINAコラム「少しずつ注目され始めたHTLV-1」


●他の細菌感染症

腟炎や尿道炎をきたす細菌は、クラミジアや淋病以外にもたくさんあります。おりものが気になる、残尿感がある、尿道に違和感がある、などの症状がある人はクリニックを受診しましょう。顕微鏡の検査ですぐに分かります。もしも感染していれば、必要な抗生物質を飲めば比較的簡単に治ります。

参考:GINAコラム 「いわゆる”雑菌”の病気」


改定:2012年4月3日